表2-1 主な微生物の種類と代謝反応
図2-11 土岐花崗岩中の深度1148〜1169mの区間から採水した地下水試料中の微生物種の構成
近年、生物にとって不利と考えられる深部地下環境においても微生物が生息していることが分かっています。それら微生物の理解は、地下環境を評価する技術につながります。生物は、酸化剤(電子受容体)と還元剤(電子供与体)を用いて代謝活動を行い、エネルギーを獲得しています。例えば、人間は酸化剤として酸素、還元剤として有機物を用いています。深部地下環境は地表とは異なり、酸素や有機物が乏しいため、それ以外の酸化剤・還元剤(エネルギー源)を利用する微生物種も生息しています(表2-1)。エネルギー獲得効率は利用する酸化剤と還元剤の組合せで異なります。エネルギー源が乏しい地下では、存在するエネルギー源を利用して最もエネルギー獲得効率の高い代謝活動を行える微生物種が、環境に適応し、優占しています。したがって、化学環境の変化により生息する微生物種の構成が変化することから、微生物が利用するエネルギー源と微生物種構成の変化を理解すれば、化学環境の変遷を読み取ることができます。しかし、そのような地下深部の化学環境と微生物の構成及び代謝活動の相関性について、特にエネルギー 源が乏しい結晶質岩を対象とした研究はあまりありません。
今回、土岐花崗岩中の深度1148〜1169mの区間から2005年と2008年に採水した地下水試料を対象に微生物のエネルギー源を特定するための地球化学分析(主要及び微量成分,有機酸,溶存ガス)と微生物種構成及び代謝活動の評価を行いました。地球化学分析の結果、地下1000m付近の環境は、利用しやすい有機物と酸化剤が乏しい環境であることが分かりました。微生物種構成の解析から、難分解性の有機物を利用できる微生物種の優占が明らかとなりました(図2-11)。また、2005年から2008年にかけて、主要成分の濃度は変わりませんでしたが、水素を利用する微生物種が減少していました。2005年の水素濃度は未測定ですが、2008年と比べて高かったことが示唆され、化学環境が変化したことが考えられます。変化の原因については現在研究中です。
本研究では、地下水の地球化学的特性に加えて微生物の生物学的特性を調査することにより、従来の調査手法では把握できなかった地層処分の対象となるような地下深部の化学環境の変化を読み取ることができました。
本研究は、独立行政法人産業技術総合研究所との共同研究の成果です。