図2-14 能登半島における比抵抗断面図
図2-15 能登半島における温泉ガスのヘリウム同位体比分布
図2-16 能登半島における温泉の成因に関する概念図
高レベル放射性廃棄物の地層処分に際しては、将来にわたって火山活動や熱水活動が生じる恐れのない安定な地域を選定する必要があります。そのため、私たちは地下深部にマグマや熱水などの熱源が存在するか否かを確認するための調査手法を開発してきました。ここでは、これらの研究を進める上で明らかになった非火山地帯の高温泉のメカニズムについて紹介します。
我が国には多くの高温泉が分布していますが、そのほとんどは火山の周辺に見られ、地下のマグマによって温められた地下水が地表にもたらされたために生じていると考えられています。しかし、石川県の能登半島では、近くに火山がないにもかかわらず、和倉温泉(泉温95℃)や栄和温泉(泉温60℃)などの高温泉が見られます。この研究では、能登半島の温泉の熱源が地下のマグマであるかどうかを検討するため、地磁気・地電流法(MT法)による比抵抗(地下の電気の流れにくさ)構造解析と温泉ガスに含まれるヘリウム同位体比(3He /4He比)の測定を実施しました。
地下40kmまでの比抵抗構造解析の結果、マグマの存在を示すような低比抵抗体は存在せず、地下1〜2kmより深い場所は花崗岩が分布していることが分かりました(図2-14)。また、温泉ガスのヘリウム同位体比は、ほとんどの温泉で大気と同程度かそれ以下の値を示しました(図2-15)。一般にマグマから放出されるガスに含まれるヘリウム同位体比は高く、火山地帯の温泉では大気の数倍の値を示します。このことから能登半島の温泉の熱源はマグマではないことが分かりました。それでは、温泉の熱源は何でしょうか。実は、比抵抗構造解析で明らかになった地下の花崗岩(基盤岩)には、ほかの地域の花崗岩に比べてウラン,トリウム,カリウムなどが数倍から数10倍以上含まれていることが分かりました。また、花崗岩中には放射性鉱物も多く含まれます。そのため、これらの元素の放射壊変によって生じる熱が温泉の熱源に深く関与している可能性があります。一次元熱モデルによって地表にもたらされる熱流量の計算結果は観測値とも整合的であることが分かりました。さらに、温泉は活断層の近傍に分布していることも考慮すると、能登半島の熱水活動は、基盤岩に由来する崩壊熱によって温められた地下水や海水が活構造帯に規制され局所的に上昇したものと考えられます(図2-16)。