図3-26 F82Hの靱性に対する介在物の影響
図3-27 Ti量の衝撃特性及び介在物生成量に対する影響
図3-28 二次精錬による介在物除去
低放射化フェライト鋼は、その耐照射性と類似鋼の豊富な実用実績を背景に、最も実現可能性の高い核融合炉構造材料の第一候補材料として、各国で開発が進められている材料です。 火力発電などで利用されているフェライト/マルテンサイト系高Cr耐熱鋼(Mod 9Cr-1Mo鋼:T91)の組成をもとに、添加元素のMoやNbをW,Ta等で置き換えることで誘導放射能の低減(低放射化)を図られた材料です。原子力機構で開発を進めている低放射化フェライト鋼F82H(Fe-8Cr-2W-0.2V-0.04Ta-0.1C)は、旧原研(現:原子力機構)と旧NKK(現:JFEスチール株式会社)が共同で開発した材料で、強度特性と溶接性のバランスを重視した設計となっており、現在世界で最もデータベースが豊富な鋼となっています。
F82Hでは、一般鋼では添加元素として用いられていないTaを靱性や耐熱性を確保するために添加しています。しかし近年の研究により、Taが粗大な介在物(Al酸化物とTa酸化物の複合酸化物)を形成してしまい、靱性や疲労特性に好ましくない影響を与えていることが明らかになりました(図3-26)。
そこで、粗大介在物にTiが含まれることに着目し、Ti 混入量を抑制したところ、粗大介在物量が低減され、衝撃特性が改善されることが明らかになりました (図3-27)。 また、エレクトロスラグ再溶解(ESR)を2次精錬として実施することで、Taを含む介在物(Ta酸化物,複合酸化物)を除去することが可能であることを実証しました(図3-28)。