3-9 プラズマの不純物輸送現象を究明

−対向壁表面のタングステン量の精密な定量分析法を開発−

図3-23 JT-60Uタングステンダイバータ配置と測定位置

図3-23 JT-60Uタングステンダイバータ配置と測定位置

プラズマ照射終了後、ポロイダル方向に配置されたダイバータを取り出し、表面に堆積したタングステンの量を測定しました。

 

図3-24 タングステン放射化分析の原理

図3-24 タングステン放射化分析の原理

中性子とタングステンの核反応で生じるタングステン187から放出するγ線を測定することでタングステンの量を求めることができます。

 

図3-25 ポロイダル方向のタングステン表面密度分布

図3-25 ポロイダル方向のタングステン表面密度分布

プラズマ照射後にダイバータ表面に堆積したタングステン量のポロイダル方向の分布(横軸の(a)〜(h)は図3-23の(a)〜(h)に対応)。内側ダイバータのストライクポイント((b)の位置)にタングステンが集中的に堆積し、飛び散ったタングステンがプラズマの流れに沿って輸送されることを、本分析法で明らかにしました。

タングステンはダイバータを始めとする核融合炉プラズマ対向壁表面の有力な候補材ですが、タングステンがプラズマの中に不純物として混入すると輻射により急激にプラズマを冷やし、プラズマの性能を著しく低下させる要因となります。プラズマへのタングステンの混入を低減させるためには、スパッタリングや蒸発などによってプラズマ中に入射するタングステンが、どのようにして輸送されていくのかを明らかにすることが不可欠で、プラズマ実験で使用された対向壁表面に再付着したタングステンの量の実測が必要です。これまでは対向壁表面のタングステン量を測定するためにイオン・電子ビームを用いた表面分析法が用いられてきましたが、微量のタングステンを定量的に測定することは技術的に困難で、その測定法の確立が大きな課題となっていました。今回、タングステンと中性子との核反応で生じるタングステン187からのγ線に着目し、放射化分析法によるプラズマ対向壁表面上に蓄積した微量タングステン表面密度の測定法を開発しました。図3-23にJT-60Uで使用したタングステンダイバータの配置とプラズマ照射後に測定したダイバータタイルの位置、図3-24に今回の放射化分析の原理を示します。

外側ダイバータ領域の一部に炭素繊維複合材(CFC)を基材とする厚さ50μmのタングステンを蒸着したダイバータを設置し、1000ショット以上のプラズマ放電を実施しました。全てのプラズマ放電終了後、タングステ ンダイバータ周辺のCFCダイバータを取り出し、縦横1cm程度,厚さ2mm程の小片に裁断した試料 (図3-23の(a)〜(h))を、原子力機構の核融合中性子源(FNS)で中性子照射を行いました。中性子照射では試料をベリリウム金属で囲うことで中性子のエネルギーを調整し、生成するタングステン187の量を増倍させることで、測定精度の向上を図りました。中性子照射後、タングステン187から放出されるγ線(686keV)を測定することで、ポロイダル方向のCFCダイバータのタングステン表面密度分布を求めました。図3-25はポロイダル方向のタングステン表面密度分布を示します。本分析法によって、プラズマの影響を受けて飛び散ったタングステンが内側ダイバータの排気粒子密度の高い領域であるストライクポイント位置(図3-23の(b)の位置)に多く集積することを初めて明らかにしました。


●参考文献
Ueda, Y., Ochiai, K. et al., Localized Tungsten Deposition in Divertor Region in JT-60U, Nuclear Fusion, vol.49, no.6, 2009, p.065027-1−065027-7.