図3-21 トカマクの周辺プラズマ流 |
図3-22 プラズマ流のポロイダル断面上の二次元構造 |
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トカマクプラズマを包み込むSOL(細い赤線で囲まれた領域)におけるプラズマは主に磁力線(緑色の線)に沿って流れます。しかし、その向きは赤と青の矢印で示すように逆向きの流れが観測されました。
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(a)のとき、プラズマ流はダイバータ板に流れる構造となり、(b)のとき(図3-21の場合)は、外側SOL領域でダイバータ板から離れる方向の逆流構造が見られます。黒実線は図3-21のプラズマ中心領域とSOLの境界です。 |
トカマクプラズマ周辺のスクレイプオフ層(SOL)のプラズマ流は、核融合炉における熱と粒子の制御にとって重要な役割を持っています。プラズマ中心の高温領域で核融合反応により生成されたエネルギーとヘリウム灰は、プラズマ周辺のSOL領域まで拡散していきます。もしSOL中の流れがダイバータ板に向かっていれば(図3-21青矢印)、ヘリウム灰を効率良く排出でき、不純物をダイバータ板近傍に留めることにより放射による冷却を効率良く行うことができます。しかし実験では、図3-21に示すように、 外側のSOL領域でダイバータ板へ向かう流れとは逆のダイバータ板から離れる流れ (図3-21赤矢印)が観測されることがあります。この流れの構造を解明するため、流体モデルを用いた数値シミュレーションが数多く行われてきましたが、実験を十分説明する結果は得られませんでした。
そこで、プラズマの粒子的振る舞いを正確に求めていなかったことが原因のひとつではないかと考え、第一原理に基づく粒子シミュレーションコードPARASOLを用いて、SOLにおける流れのパターンについて調べました。その結果、ダイバータ板(あるいはX点)が上側にあるときと下側にあるときで、プラズマ流が変化することを見いだし、その物理機構を解明することができました。 PARASOLコードは、プラズマ中心領域とSOL領域の全領域を扱い、その領域に存在する非常に多数のイオンと電子の振る舞いを模擬することができます。粒子の軌道は、粒子シミュレーションによって自己無撞着に計算される電場の中で、旋回運動や粒子間の二体衝突モデルにより正確に求められます。図3-22にシミュレーションによる、磁力線平行方向のプラズマ流 (V//)のポロイダル断面に投影した二次元構造を示します。図3-22(a)のとき(上側にX点)、内側SOL領域(図中青色)でも外側SOL領域(図中赤色)でも流れはダイバータ板に向かい、淀み点(V//=0)は下底側に得られました。一方、図3-22(b)(図3-21の場合で下側にX点)のとき、外側のSOL領域(赤色)で逆流パターン(反時計回り流れ)となりました。このシミュレーション結果は、実験と比較すると定性的にも定量的にも非常によく似た流れとなっていることが分かりました。さらに、プラズマの流れの複雑なパターンは、主にトロイダル形状を持つ磁場中のイオン粒子軌道の効果によりもたらされることが分かりました。