図3-18 高エネルギー粒子駆動型不安定性と圧力駆動型不安定性の観測波形
図3-19 高エネルギー粒子(高速イオン)の粒子軌道の概略図
図3-20 新たに開拓した不安定性物理領域の概略図
経済性のある核融合炉の実現には、建設コストを抑えるためコンパクトで、その上、より核融合出力が高い装置が望まれます。核融合出力はプラズマの圧力(温度×密度)の自乗に比例しますので、できる限り高いプラズマ圧力での運転が必要になります。しかしながら、磁場閉じ込め型の核融合炉では、到達できる圧力に限界(圧力限界)があり、それに達するとプラズマは変形し閉じ込めを維持できなくなります。プラズマ圧力によって発生する変形を「圧力駆動型不安定性」と呼びます。JT-60では、この不安定性を抑制し圧力限界に近い領域で核融合反応を持続し発電する運転領域を目指して研究開発を行っています。
これまでJT-60ではプラズマを回転させることにより圧力駆動型不安定性を安定化することに成功しています。しかしながら、十分にプラズマを回転させ、圧力駆動型不安定性を抑制しつつ到達した高圧力の運転において、圧力駆動型不安定性が突発する現象を観測しました。この現象には、図3-18に示すように数kHzで振動し間欠的に成長・減衰を繰り返す別の不安定性が関係していることが分かりました。詳細な解析から、この不安定性は高圧力プラズマでのみで発生し、プラズマ中に存在する高エネルギー粒子(高速イオン)が駆動源となる「高エネルギー粒子駆動型不安定性」であることが分かりました。図3-19に駆動源である高速イオンの運動を模式的に示します。プラズマ中で高速イオンの一部は、ジグザク運動(バナナ運動)を繰り返しつつ周回運動をします。この周回運動の周期が観測した不安定性の周期に近いことなどから、この不安定性は高速イオンの周回運動と共鳴して発生したと考えられます。
この新たに観測した高エネルギー粒子駆動型不安定性が圧力駆動型不安定性と相互作用(誘発)する現象は、核融合炉プラズマ、すなわち核燃焼・高圧力プラズマで発生し問題になると考えられます(図3-20)。また、この新たな不安定性がプラズマ周辺で発生し突発的にエネルギーを放出する周辺局在モードにも相互作用し、放出エネルギーを緩和するという良い現象も観測しています。今回の新たな不安定性の発見は、JT-60において核融合炉で想定される高いプラズマ圧力が実現ができたことによるもので、世界に先駆けた成果となっています。