図3-15 JT-60用500keV負イオン源の改良
図3-16 負イオン源加速電極と小型電極の耐電圧特性
図3-17 負イオン源高エネルギー化の進展
核融合装置では、核融合反応が効率良く起こる温度までプラズマを加熱するとともにプラズマ内部に外部から電流を駆動するため、中性の水素ビームをプラズマ中に入射します。 ITERや将来の核融合炉においては、プラズマの中心部を加熱するために従来のビーム(約100keV)よりも高エネルギーなビームが必要とされています。臨界プラズマ試験装置(JT-60)では、水素の負イオン源(図3-15)を用いた高エネルギー中性粒子ビーム入射装置を世界に先駆けて建設し、高エネルギービームを利用したプラズマ実験や負イオン源の開発を行ってきました。
しかし、設計エネルギー500keVの負イオン源の耐電圧性能が不足していたことにより、その最大エネルギーが420keV程度に制限されていました。この負イオン源の耐電圧は、面積が約0.02m2の小型電極の耐電圧性能をもとに設計されており、約2m2と100倍大きい面積を 持つ大型負イオン源の耐電圧特性は調べられておらず、必要な真空絶縁距離を予測することができていませんでした。
そこで私たちは、負イオン源の高エネルギー化のために、負イオン源の真空絶縁距離を調整して大面積電極の耐電圧特性を調べました。その結果、図3-16に示すように、負イオン源の大面積電極は小型電極よりも非常に長い真空絶縁距離を確保する必要があることが分かりました。また、小型電極に強電界を発生させた実験を行い、耐電圧が電界分布と面積の両方の影響で低下することを明らかにしました。これらの結果は、JT-60SAやITERに向けて現在開発している負イオン源の耐電圧設計を行うための、貴重なデータベースとなりました。
そして、負イオン源実機を用いて得た、このデータベースをもとにして負イオン源の改良を実施したところ、500kVの高電圧を安定に保持できるようになりました。その結果、図3-17に示すように、これまでの最高エネルギーを大きく上回り、加速電源の出力限界である500keVのエネルギーで約3Aのビームを加速することに成功しました。
今回の成果のキーポイントは、負イオン源の中で最も短かった真空絶縁距離を広げたことです。この成果により、500keVのビームを必要とするJT-60SA用中性粒子ビーム入射装置の実現に大きく貢献するとともに、学術的には、大面積電極の真空耐電圧特性の新たな知見を得ました。