7-3 同位体分離のブレークスルー

−固体や液体状態で同位体を遠心分離する−

図7-7 (a)超重力場装置,(b)開発した固体や液体状態での同位体分離ユニット(遠心機ローターと溶融試料射出装置)

ローター内での試料移動

(1)は供給試料(0.1g-In/shot)、

(2)の113Inが多い成分がオーバー

フローして(3)へ移動。

Inの物性値

融点:156.4℃

比重:7.9

同位体の天然存在率

113In:4.3%

113In:95.7%

拡大図(217KB)

図7-7 (a)超重力場装置,(b)開発した固体や液体状態での同位体分離ユニット(遠心機ローターと溶融試料射出装置)

遠心機にローターを吊して高速回転させて超重力場を発生させます。ローターはチャンバー内に設置されたヒーターで400℃まで加熱可能です。

 

表7-1 遠心前後の金属インジウムの113Inの存在率

(1)遠心前,(2)遠心後の第1分離槽内,(3)遠心後の第2分離槽内(図7-7(b)模式図参照)

表7-1 遠心前後の金属インジウムの113Inの存在率

拡大図(103KB)


数10万g g = 9.80665m/s2)レベルの遠心加速度場 (超重力場)では、固体状態の合金等において、より原子量の大きな原子が遠心加速度方向に、より原子量の小さな原子が反対方向に移動する現象、すなわち、原子の沈降が生じます。私たちは、試料を加熱しながら最大100万g を加えられる遠心機を開発し(図7-7(a))、超重力場における原子の沈降の質量依存性を調べた結果、質量数の差の小さな同位体しか存在しない単一元素中であっても原子が沈降すること、つまり、同位体の沈降を見いだしました(熊本大学との共同研究)。この同位体の沈降は、Se,In,Sn等で、固体,液体いずれの状態でも確認されました。

これまで、同位体を「遠心分離」する方法としては、物質の3態のうち、気体状態を扱う方法(ガス遠心分離法)しか実現されていませんが、私たちが見いだした同位体の沈降は、ほかの2態を扱う方法を実現しうる可能性を秘めた現象でした。そのため、これが固体や液体状態で同位体を遠心分離する方法の基本原理となりうる現象であることを実証するための研究・開発を実施しました。

まず、外部から試料を供給しながら、内部の二つの溝に同位体比の異なる成分を分配できる遠心機ローターを開発しました(丸和電機株式会社との共同研究(原子力機構黎明研究))。評価試料には、天然には二つの同位体しか存在しないため同位体分離を評価しやすい金属インジウムを選定しました。

図7-7(b)は、開発した遠心機ローター及び遠心機ローターに試料を供給するための溶融試料射出供給装置、表7-1は固体,液体それぞれの場合における、遠心前後の金属インジウムの113Inの存在率を示しています。固体と液体では、拡散係数の違いにより、分離槽内が同位体分離平衡に達するまでの時間が異なるため、試料の供給間隔と遠心処理時間の条件が一桁ほど違いますが、同じ遠心加速度では最終的に同程度の分離比が得られています。このことは、固体と液体状態では、ローター内の試料の移動の原理は異なるものの(固体:塑性変形)、同位体分離は同一の原理が支配していることを示しています。

以上のとおり、同位体の沈降が固体や液体状態で同位体を遠心分離する方法の基本原理となりうることを遠心機ローターの開発をもって示しました。