図7-8 鉄還元菌を添加あるいは無添加の白金酸溶液の写真(左上)及び鉄還元菌の電子顕微鏡写真(右下)
図7-9 H2-D2混合ガスを触媒カラム中に流した際に得られた、流出ガス中のHD/D2存在比の経時変化
微生物(鉄還元菌)により白金やパラジウムの金属ナノ粒子(1 mmの1万分の1以下の粒子)を生成する、新規のバイオ手法を開発しました。
触媒能に優れる白金族元素は、電気化学反応による燃料電池,光化学スモッグや酸性雨などの原因物質(窒素酸化物:NOx)除去,同位体交換などの触媒として幅広く使用されています。その一方で、白金族元素は希少かつ高価であるため、その有効活用には少量で表面積を大きく利用できるナノ粒子化が不可欠です。しかし従来のナノ粒子作製法では、大規模システムを必要とする経済性の問題やナノ粒子の高純度化などの技術的課題がありました。
微生物はエネルギーを得るために様々な機能を有しています。中でも、元素を集める機能(濃集機能)や選別する機能(選択機能)は、核燃料サイクルにおけるアクチノイドの新しい分離・回収法の開発やアクチノイドの地下水中移行の予測モデルの精緻化に貢献できる重要な研究です。
本研究では、特定の微生物が超ウラン元素(TRU)などを不溶化することに着目し、鉄還元菌による白金族イオンの還元による沈殿を試みました。その結果、水溶液中に溶解した塩化白金イオンと塩化パラジウムイオンは鉄還元菌から電子を受け取り、0価の白金族元素に還元される以下の反応が生じていることが分かりました。
PdCl42− + 4e− + 2H2O → Pd (沈殿) + 4HCl + O2
PtCl64− + 6e− + 3H2O → Pt (沈殿) + 6HCl + 3/2O2
細胞表面を電子顕微鏡で観察したところ、白金族元素を含むナノ粒子が生成していました(図7-8)。また、ナノ粒子をX線回折及び放射光におけるX線吸収微細構造解析を行ったところ、白金族の価数は0価であり、面心立方構造をとっていることを明らかにしました。微生物を用いる白金族元素ナノ粒子の生成方法は、従来の工学手法とは全く異なる新規のバイオ手法です。
さらに、珪藻土に「微生物細胞-白金族元素ナノ粒子」を保持させて、水素(H2)と重水素(D2)の同位体交換(H2+D2→2HD)の触媒性能を調べました。時間の経過、すなわちH2-D2混合ガスの流入量の増加により流出ガス中のHD/D2存在比が増加しました(図7-9)。水溶液中での沈殿により生成した白金粒子単体と比較して約6倍の効率で交換できることが分かり、バイオ手法による白金族ナノ粒子の優れた触媒能を世界で初めて示しました。
本研究は、名古屋大学との共同研究の成果の一部です。