図8-5 NNRIの全体写真
図8-6 NNRI内に設けられた「全立体角Geスペクトロメータ」の写真
図8-7 244Cm試料(1.8GBq,0.6mg)をNNRIの「全立体角Geスペクトロメータ」で約40時間測定した結果
放射性廃棄物の低減・管理は、将来の原子力エネルギー開発における重要な課題です。特に放射性廃棄物の低減を目的とした核変換の研究では、マイナーアクチノイド(MA)や長寿命核分裂生成物(LLFP)の高い精度の中性子捕獲反応断面積が必要とされています。しかしながら、放射性核種であるMAとLLFPは同位体純度が低く、利用できる試料が微量であるため、断面積測定には大強度のパルス中性子源及び高性能の検出器が不可欠でした。
このような背景の下、北海道大学,東京工業大学,原子力機構は、世界最高性能の中性子核反応測定装置(NNRI)を大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に共同で整備し(図8-5)、測定を開始しました。NNRIには多数のGe検出器からなる「全立体角Geスペクトロメータ」(図8-6)が設置されており、中性子捕獲反応によって発生する即発γ線のエネルギーと中性子飛行時間法により中性子のエネルギーを同時に測定することができます。
同様の装置はスイスの欧州原子核研究機構(CERN)や米国のロスアラモス国立研究所(LANL)にもありますが、NNRIの試料位置での中性子強度はこれまでの世界最高性能のLANLの装置に比較しても約7倍強いため1mg以下の極微量試料でも測定が可能です。また、「全立体角Geスペクトロメータ」は他施設で用いられている検出器に比べてγ線のエネルギー分解能が二桁程度高く、核種弁別による不純物の影響除去が可能です。
例として、244Cm試料(1.8GBq,0.6mg)の測定結果を図8-7に示します。200eV以下の領域で7本の共鳴吸収反応のピークを明瞭に確認できました。特に20eV以下の2本の共鳴吸収反応ピークは世界初のデータです。
今後、J-PARC MLFの中性子強度は更に約8倍増強される予定であり、より微量な試料での測定が可能となります。また、大強度のパルス中性子ビームと「全立体角Geスペクトロメータ」の核種弁別性能を活かし、宇宙核物理研究に必要な核データの測定や微量分析等、幅広い応用研究が予定されています。
本研究は、エネルギー対策特別会計に基づく文部科学省からの受託事業として、北海道大学からの再委託で原子力機構ほかが実施した平成20〜21年度「高強度パルス中性子源を用いた革新的原子炉用核データの研究開発」の成果です。