8-4 高照射損傷を受ける原子力機器構造設計を合理化

−高照射による延性低下にも適用できる構造健全性概念を構築−

表8-2 高延性から低延性までの体系的な破損モード

高延性及び延性が低下した場合に破損モードはき裂の発生と過大な変形に大別できます。各カテゴリーごとに、荷重条件等により破損モードが細分化されます。

表8-2 高延性から低延性までの体系的な破損モード

 

図8-11 高照射を受けた構造不連続試験体の破壊直前の様子

図8-11 高照射を受けた構造不連続試験体の破壊直前の様子

フェライト鋼製で、中央部に円孔(孔の初期直径約2.5mm)を有する試験体に引張荷重を負荷した場合でも、JISの引張試験片と同じく、中央部で変形が不安定化してくびれが発生します。最大ひずみ点である円孔内縁からのき裂発生は見られませんでした。

高速増殖炉の高性能化,軽水炉の高経年化及び核融合システム開発などにおいて、高い中性子照射量で使用される機器の設計の合理化が必要となります。従来の設計では、材料の伸びが所定の値(例えば10%)以上で使うこととしていますが、照射量が高くなってくるとこの条件を満たさない場合があります。

しかし、これまでの研究の結果、伸びは著しく低下しても、機器の健全性確保に必要な材料の変形能力(延性)は、より適切な指標である絞りなどから、確保されることが分かっています。一方、延性も照射量とともに徐々に低下するため、今回、照射前には高延性であったものが照射により低下していく場合にも健全性を確保する方法を検討し、その概念を構築しました。

延性が低下すると、破壊の仕方、いわゆる破損モードや変形挙動等が変わってきます。このため、従来、破壊防止の許容応力を設定するために破壊ひずみの代替として用いていたパラメータ(引張強さ)では設定が難しくなります。そこで、まず、延性低下とともに破損モードがどのように変わるかを考察し、体系的に整理するためにはどのように破損モードを分類するのがよいかを検討しました。その結果、クリープ現象が現れない低温側においては、き裂の発生と、過大な変形による機能の喪失に大別できることを明らかにし、表8-2として整理することを提案しました。

次に、これらの破損モードごとに許容応力を設定するための限界パラメータは本質的にどのような姿であるべきかを考察し、破損に至るまでに変形が不安定化するか、き裂発生が先かによって変えるべきことを示し、延性低下する場合の体系的な判断基準を構築しました。しかしながら、変形が複雑となる構造的に不連続な形状の場合に、この判断基準が適用できるか不明でした。そこで、実際に高照射した中央部に円孔を有する不連続構造体の引張試験の結果、破壊直前には図8-11のようになり、最大荷重点を超えると、き裂が発生する前に変形が不安定化し、局所的に絞られることを明らかにしました。これは、単純なJIS試験片の引張試験と同じであり、これによって判断基準の構造的に不連続な形状への適用性を実証しました。

今後、クリープ現象が現れる高温側にこの概念を拡張し、体系的な構造健全性概念の構築を目指していきます。

本研究の一部は独立行政法人原子力安全基盤機構からの受託研究「高照射損傷を受ける炉内機器の破壊防止制限の高度化に関する研究」の成果です。