12-10 放射線量測定範囲を拡張する

−電子線・γ線加工処理における品質保証に役立つ線量計測技術の開発−

図12-23 透明PMMA線量計「Radix W」

図12-23 透明PMMA線量計「Radix W」

素子は、湿気を通さないアルミラミネートされた袋に封入されています。袋ごと照射した後に開封して、分光光度計による吸光度の読み取りから線量を知ることができます。

 

図12-24 Radix Wのγ線に対する波長別の線量応答曲線

図12-24 Radix Wのγ線に対する波長別の線量応答曲線

読み取り波長を320 nmから280 nmにすることによって、感度が著しく上昇し、測定精度が上がりました。また、波長を変えても線量応答特性に対する照射温度の影響にはほとんど差がありませんでした。

 

図12-25 Radix Wの電子線に対する線量応答曲線

図12-25 Radix Wの電子線に対する線量応答曲線

線量計素子内部の深度線量分布の寄与を補正して表面線量として求めると、エネルギーに依存しない一つの線量応答曲線が得られました(点線は、図中のプロットされた全データの近似曲線を表します)。

身近に目にする医療用具や衛生用品の大部分は、放射線で滅菌されています。放射線滅菌の完遂は、製品が受けた放射線のエネルギー(吸収線量)の測定結果で左右されます。滅菌が不十分だとこれらの製品を利用する人体の健康に直接影響を及ぼす可能性があります。滅菌処理工程では、照射前に菌数を測定し、その汚染状態から滅菌線量が決定されます。その線量範囲は1 kGyから数10 kGyになります。したがって、幅広い線量範囲を正確に評価することは、照射製品の品質管理上、大変重要です。

現在、コバルト- 60のγ線を用いたプロセスには、照射による着色反応を利用した透明ポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計「Radix W」が使われています(図12-23)。しかし10 kGy以下の線量域に対する測定精度に問題がありました。そこでRadix Wの測定手法の改良を試み、波長が短い領域(270〜320 nm)における線量応答特性について定量的に調べました。その結果従来の読み取り波長320 nmより短い波長280 nmで測ることにより0.5〜10 kGyの線量域に対する感度を上げ、測定精度を向上できることを明らかにしました(図12-24)。これにより、二つの波長320及び280 nmを併用することにより、たった一つの線量計素子(Radix W)で高精度かつ広範囲(0.5〜150 kGy)に測定できることを見いだしました。

一方、γ線とは線量率が異なるMeV級電子線を用いたプロセスには、これまで数10〜100 μm厚さのフィルム状線量計を用い、試料の表面線量を評価してきましたが、厚さのばらつきや取り扱いの煩雑さがあり測定精度に問題がありました。そこで、厚さのばらつきが少ないRadix WについてMeV級電子線量に対する線量応答特性について定量的に調べたところ、2〜5 MeVのエネルギー領域では電子線のエネルギーに依存しない1本の検量線を得ることができました(図12-25)。これによりRadix Wの電子線量計測へ適用できることを明らかにしました。

これらより、一つの線量計(Radix W)で放射線プロセスにおけるγ線量と電子線量を両方評価できることを明らかにしました。

本研究は、線量計測の技術レベルの管理方法などを記した国際規格(ISO/ASTM51276)に引用文献として掲載され、放射線プロセスの信頼性を高めることに貢献しました。