図12-21 これまでのMo吸着剤(PZC)の課題
(a) PZC製造時においては、設備が複雑になり、また特別な保存方法が必要であるという課題があります。
(b) PZC使用時において、再利用が困難であるという課題があります。
図12-22 考案した新型Mo吸着剤の構造と特性
(c) Mo吸着サイトをPZCのZr-Cl部からTi-有機基に変更することにより、塩素を含まないMo吸着剤の合成に成功しました。
(d) 性能確認試験を行い、Mo吸着量に関してPZCと同等であり、溶離性能に関してPZCよりも優れているという結果が得られました。
99mTcは、核医学の分野において画像診断に使用する検査薬等の原料として使用されています。我が国における核医学診断の半数以上が99mTc製剤を使用しています。99mTcは99Moのβ-崩壊により生成されます。我が国の99Mo需要は、米国に次ぎ世界第2位ですが、現在全量を輸入に頼っています。近年、海外99Mo製造用原子炉のトラブル及びアイスランドの火山噴火による空路輸送障害等により99Moの安定供給が困難となったことから、99Moの国産化が重要な課題となっています。
海外では核分裂法(235Uの核分裂により生成する99Moを抽出する方法)による製造が主流ですが、JMTRでは放射化法(98Mo(n,γ)99Mo)による99Mo国産化技術開発を行っています。この技術開発において、99Mo - 99mTcジェネレータ用Mo吸着剤の候補としてこれまで無機高分子ジルコニウム化合物(PZC)を用いることが検討されてきました。しかしながら、PZCは、構造中に腐食性のある塩素を含むことから、「製造設備が複雑」「製造してから使用するまで温度や環境などの特別な保存方法が必要」「再利用ができないため、多量の放射性廃棄物が発生」等の課題がありました(図12-21)。このため、PZCと同等以上の性能を有し、かつこれらの課題を克服するMo吸着剤の開発に着手しました。まず、Mo吸着剤の構造評価を行い、Mo吸着サイトをこれまでのZr-Cl(PZC)からTi-有機基(図12-22(c))にすることにしました。また、Mo吸着剤の合成において、原料を四塩化ジルコニウムから塩素を含まないTiアルコキシドにすることにより、塩素を除去するためのガス置換が不要となり、製造設備を簡素化することができました。これにより、PZCに代わる塩素を含まない無機高分子チタニウム化合物(PTC)の製造法を確立しました。
合成したPTCを用いて、炉外特性試験及びJRR-3Mにおける炉内特性試験を行った結果、PZCと同等のMo吸着量を有するとともに、99mTcの溶出速度が速く、99mTc抽出が容易にできることを明らかにしました(図12-22(d))。また、使用済PTCからMoを回収し、更にこのPTCにMoが再吸着できることを明らかにし、再利用可能で放射性廃棄物の低減に貢献できる見通しを有するMo吸着剤の開発に成功しました。