地層処分は、原子力発電に伴って発生する高レベル放射性廃棄物などを、何万年にわたって人間の生活環境から隔離しておくための対策です。東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子力政策を見直す議論が高まっていますが、高レベル放射性廃棄物は既に発生しているものであり、今後の原子力政策の如何にかかわらず、私たちの世代が解決しなければならない課題です。我が国の現在の方針では、最終的に残る高レベル放射性廃液をガラス原料に混ぜ、高温で溶かし合わせてガラス固化体にします。これを、金属製のオーバーパックに封入した上で、地下300 m以深の安定な岩盤の中に緩衝材で包み込んで埋設します(図2-1)。
地層処分は、候補地の選定から処分場の閉鎖まで100年を要する事業であるため、国が責任をもって継続的に技術基盤を強化し、社会の信頼を得ながら段階的に進めていくことが重要です。そのため、私たちは様々な観点から、地層処分の技術と信頼を支える研究開発に取り組んでいます。
まず、地層処分の舞台となる深地層の環境を総合的に研究するため、花崗岩と堆積岩を対象に二つの深地層の研究施設計画を進めています(図2-2)。2010年度末現在、東濃地科学センターでは深度497 m、幌延深地層研究センターでは深度250 mまで坑道を掘り進めており、それぞれに研究用の水平坑道も整備しました。実際の候補地での調査に先だって、深地層の岩盤や地下水を調べる技術を整備しておくことが目的です。地下の坑道は、深地層の環境を体験・学習する場としても活躍します。また、何万年という長期間にわたる変化を考慮するため、火山や活断層などに関する研究を併せて行っています。
東海研究開発センターでは、人工バリアや放射性物質の長期挙動に関する実験データや、深地層の研究で得られる情報などを活用して、処分場の設計や安全評価に必要な技術の開発を進めています。2010年度は、これまでの成果を統合して、ガラスの溶解及びオーバーパックに関するデータベースを構築しました。
また、研究開発の成果を知識ベースとして体系的に管理・継承していくため、2009年度末に公開した知識マネジメントシステムの拡充を進めています。
安全で安心な地層処分の実現に向けて、私たちは研究開発を着実に進めると同時に、分かりやすい情報の発信や研究施設の公開などを通じて、地層処分に関する相互理解の促進にも努めていきます。