図2-9 屈曲度(τ2)及び収れん度(δ)の定義
図2-10 サブミクロンの空間分解能で、岩石基質部の微細間隙構造を可視化、解析したもの
表2-1 ナノX線CT画像解析による間隙構造特性と拡散試験結果
岩石基質中の拡散は、地層処分された高レベル放射性廃棄物からの核種移行プロセスにおける重要な現象のひとつであり、その拡散係数は岩石の遅延性能評価における重要な因子です。この拡散は、間隙率及び間隙形状に影響されます。拡散のモデル式では、幾何学因子は、実効拡散係数/(有効間隙率×自由水中の拡散係数)=収れん度/屈曲度(図2-9)で記述され、経験的に間隙サイズが拡散する化学種に比べて十分に大きい場合に、1/屈曲度とされてきましたが、間隙形状の直接測定により検証された例は見当たりません。今回、幌延深地層研究センターのボーリング孔(HDB10孔)における深度約500 mの稚内層から採取した珪質泥岩について、ナノX線CTを用いて屈曲度及び収れん度を求め、トリチウム水の室内拡散試験結果との関係を調べました。
図2-10に示すように、岩石基質部の微細間隙構造を解析しました。その結果と拡散試験結果を表2-1に示します。1/屈曲度は、拡散試験からの幾何学因子におおむね一致し、間隙サイズが拡散する化学種に比べて十分に大きい場合の経験則を支持します。
トリチウム水の拡散試験によって得られた、実効拡散係数及び有効間隙率は、地表に対して鉛直方向の方が水平方向よりも小さい値を示しました。この原因はどこにあるのでしょうか。 まず、屈曲度については、画像解析により、鉛直と水平方向でおおむね等しい値を示しています。このことは、拡散試験からの幾何学因子が、鉛直と水平方向で一致していることと対応します。一方、表2-1に示すように、画像解析から得られた連結性間隙数は、Z軸方向において、他の方向よりも小さな値です。この結果は、拡散試験結果において、鉛直方向での有効間隙率が水平方向よりも小さい値であったことと一致します。すなわち、画像解析から得られた連結性間隙数は拡散試験から得られた有効間隙率と対応し、これらがトリ チウム水の拡散異方性の原因であることを示唆しています。
このように、これまでよく分からなかった岩石基質部の微細間隙構造を定量評価できるようになり、拡散機構の解明に大きく寄与できるものと考えています。
本研究は、経済産業省からの委託事業平成20年度「処分システム化学影響評価高度化調査」の成果の一部です。