2-5 過去の地殻変動の痕跡から将来を予測する

−破壊された岩石から紐解かれる断層の発達史−

図2-11 破砕帯の偏光顕微鏡写真の例

図2-11 破砕帯の偏光顕微鏡写真の例

(a)では、鉱物や岩片に割れ目が密に発達している様子が分かります。更に破壊が進行すると、(b)のように鉱物や岩片は細粒化するとともにばらばらとなり、粘土鉱物がその隙間を充てんするようになります。

 

図2-12 断層ガウジのX線回折パターンの例

chl:緑泥石 ill:イライト sc:スメクタイト

図2-12 断層ガウジのX線回折パターンの例

粘土鉱物は一般に非常に細粒で顕微鏡下での識別が難しいため、X線回折分析などによって鉱物の同定を行います。(1)無処理 (2)エチレングリコール処理(スメクタイトの同定) (3)塩酸処理(緑泥石の同定)です。

 

図2-13 カリウム・アルゴン年代測定のための希ガス

図2-13 カリウム・アルゴン年代測定のための希ガス用質量分析装置

アルゴンの同位体比を測定し、年代値を計算します。

断層が動いて岩盤が破壊されると、岩石の破片の集合体や、著しい割れ目の発達によって特徴づけられる破砕帯が形成されます。破砕帯には岩石や鉱物の変形の痕跡が保存されています。これらの変形の特徴を調べることで、破砕帯が形成された深度を推定したり、断層が動いた方向を復元したりすることができます。

陸側のプレートと海側のプレートがせめぎ合う変動帯に位置している日本列島では、数多くの断層が分布しています。これらの断層について、過去の活動の歴史に基づき、将来の活動性を評価することは、地震防災の観点に加え、高レベル放射性廃棄物の地層処分にとっても重要なテーマです。

本研究では破砕帯の分布や性状に着目し、断層の発達史を紐解くための調査を行ってきました。すなわち、詳細な地質調査により、破砕帯の分布を明らかにするとともに、地表に露出している破砕帯の性状(破壊された岩石や鉱物の大きさ,種類,配列,及び変形の特徴など)を記載しました。さらに、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて破砕帯から採取した岩石のミクロな形状の観察も行いました(図2-11)。以上の調査に基づき、破砕帯をいくつかのタイプに分類し、断層の発達史を考察しました。

また、割れ目が発達する破砕帯は、地下水の通り道となりやすいので、岩石が地下水と反応して様々な変質鉱物ができます。変質鉱物の種類や分布は、水-岩石反応が起きた当時に破砕帯が置かれていた地下環境(地下水の水質や温度など)を反映するので、変質鉱物を調べることは、断層が成長していく過程での地下環境の変化を明らかにするための重要な情報となります。

破砕帯で形成される変質鉱物の代表的なものが粘土鉱物です。破砕帯のうち、岩石の破壊が著しく進行した部分では、細粒・未固結の物質から成る断層ガウジと呼ばれるものが形成されます。断層ガウジには、しばしばイライト,スメクタイト,緑泥石,カオリナイトなどの粘土鉱物が多く含まれます(図2-12)。このうちイライトは、カリウムが壊変してアルゴンができる系を利用した放射年代測定が適用できるので、イライトのカリウム・アルゴン年代を測定することで、断層の発達史に時間軸を入れられることが期待されます(図2-13)。ただし、断層ガウジ中のイライトは非常に細粒で、かつ周辺岩盤にもともと存在する含カリウム鉱物の影響を排除する必要もあるので、試料の処理には相当の工夫が必要です。本研究では、そのような年代測定の技術開発も進めています。