2-6 地下水中に存在するナノスケール微粒子の採取に向けて

−被圧・嫌気状態を保持したろ過手法の開発−

図2-14 地球化学環境の変化に伴うコロイドの変化

図2-14 地球化学環境の変化に伴うコロイドの変化

サンプリング時の圧力開放や大気暴露に起因する地下水の地球化学環境(酸化還元電位,pH等)の変化によって、コロイドの化学状態が変化してしまいます。

 

図2-15 被圧・嫌気状態を保持した限外ろ過装置の概念図

図2-15 被圧・嫌気状態を保持した限外ろ過装置の概念図

高耐圧・気密性を有するステンレス製で、限外ろ過膜ホルダーの前後に取り付けた圧力調製器により、ろ過膜の耐圧限界(約0.35 MPa)を超えた地下水圧に対しても、ろ過膜の性能を低下させることなくろ過を行うことが可能です。

 

図2-16 大気暴露時間に伴うろ液中の鉄の濃度(左)と希土類元素の濃度比(右)

拡大図(95KB)

図2-16 大気暴露時間に伴うろ液中の鉄の濃度(左)と希土類元素の濃度比(右)

大気暴露に伴い、ろ液中の鉄の濃度が減少しています。これは、酸化により、鉄が凝集してコロイドを形成し、ろ過膜上に捕獲されたと考えられます(左)。大気暴露時間 :0分のろ液中の希土類元素の濃度を1として、大気暴露時間:180分,43200分の濃度を示しました。 大気暴露に伴い、ろ液中の希土類元素の濃度が減少しています。これは、 酸化によって形成された鉄コロイドに、希土類元素が吸着し、ろ過膜上に捕獲されたと考えられます(右)。

高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価において、地下水中の元素の挙動を理解することは重要です。地下水中の元素の挙動は主に地下水の地球化学環境や流動状態、岩盤との相互作用(吸着等)に支配されます。また、コロイドと呼ばれるナノスケールの微粒子が元素の挙動に影響を及ぼすことが分かっています。しかしながら、地下水中のコロイドに関する研究においては、サンプリング時の圧力開放や大気暴露に起因してコロイドの状態が変化してしまうという課題があります(図2-14)。本研究では、この課題を解決するために、被圧・嫌気状態を保持して限外ろ過を行うことが可能な装置を開発しました(図2-15)。

今回、深度200 mの地下水を対象として、被圧・嫌気状態を保持せずにろ過を行った場合(大気暴露時間:180分及び43200分)と、開発した限外ろ過装置を用いて、被圧・嫌気状態を保持してろ過を行った場合(大気暴露時間:0分)で得られたろ液の化学分析を行いました(図2-16)。その結果、前者においては、大気暴露に伴う酸化により、溶存している鉄が凝集しコロイドを形成してしまうことが分かりました。さらに、この鉄コロイドに希土類元素が吸着している可能性が示唆されました。以上のことから、開発した限外ろ過装置が課題を解決できることが明らかとなりました。

開発した装置は、限外ろ過膜ホルダーを被圧・嫌気状態を保持して、圧力調製器と分離して保管・輸送を行うことが可能であり、限外ろ過膜に捕獲されたコロイドを様々な分析に供すことができます。今後は、この装置を用いてコロイドを採取し、その化学状態を評価することにより、地下水中のコロイドが元素の挙動に与える影響の解明を目指します。