3-4 ITERで電流分布計測の鍵を握る新型炉内ミラーを考案

−ITERポロイダル偏光計用レトロリフレクターの開発−

図3-10 ITERの真空容器断面図及びITERポロイダル偏光計の入射レーザー光の光路

図3-10 ITERの真空容器断面図及びITERポロイダル偏光計の入射レーザー光の光路

レーザー光を点線で、RRの設置予定位置を赤丸で示しています。

 

図3-11 (a)RRを設置した時の図(b)TERRAを設置した時の図 (c)従来型のRRアレイ

図3-11 (a)RRを設置した時の図 (b)TERRAを設置した時の図 (c)従来型のRRアレイ

RRの場合、冷却配管が無い所にしか設置できません。一方TERRAの場合は、設置の際の制限が少ないです。また、従来型のRRアレイでは浅い角度の入射光を入射方向に反射できません。

 

図3-12 TERRAによって反射されたレーザー光の光強度分布

図3-12 TERRAによって反射されたレーザー光の光強度分布

(d) ,(e), (f)はそれぞれ反射後1,2,10 m伝搬した時の光強度分布です。赤い所が光強度の高い場所です。

核融合の磁場閉じ込め方式のひとつであるトカマク方式において、プラズマの長時間維持・高性能化を目指した運転のためには内部磁場構造(プラズマ電流分布)を高精度に同定する必要があります。内部磁場を計測する手法としてレーザー光のファラデー回転を利用したポロイダル偏光計測が知られており、ITERにおいても採用されています(日本が開発を担当)。ITERポロイダル偏光計では真空容器内に設置されたレトロリフレクター(RR)を用いてレーザー光を反射し、入射ビームと同じ光路を辿って計測室に戻す必要があります(図3-10)。

RRは、ブランケットモジュールと呼ばれるプラズマ対向構造物に直径約60 mmの穴を開けて、取り付けられることが計画されています。しかし、ブランケットモジュール内の冷却配管との干渉を避けて設置穴を設ける必要があり(図3-11(a))、特にレーザー光が浅い角度で入射する場合(図3-10の青線)、計測上の最適位置にRRを設置できないことが懸念されました。これを解決し、最適位置への設置を可能とするため、小さなRRで構成される新型のRRアレイ(テラス型レトロリフレクターアレイ:TERRA)を考案しました。従来型のRRアレイでは、浅い角度で入射する光を入射方向に反射できない(図3-11(c))ため、TERRAではアレイを構成する小RRの角度を変更することで浅い角度の入射光を入射方向に反射できるようにしました。これにより、設置の際に制限を受けない構造を実現しました(図3-11(b))。また、冷却の観点からも薄い形状を持つTERRAは好ましい結果を得ています。

TERRAを構成する小RRによって反射された光は、互いに干渉し特定の方向に伝搬する性質を持っています。図3-12はレーザー光の強度分布を表していますが、反射直後(d)と(e)は干渉によって複雑なパターンになっています。TERRAがプラズマからの熱を受けて変形すると、伝搬方向や強度分布は変わってきます。そこで、ITERでのTERRAの変形量を見積もり、計測室に戻ってくるレーザー光の特性を評価した結果、入射レーザーパワーの約50%が計測室に帰ってくること、レーザーの偏光にほとんど変化がないことを明らかにしました。

このように、ITERで電流分布計測を実現する上で鍵を握る新型のRRを開発し、ポロイダル偏光計の光学設計における重要な課題の解決に見通しを得ました。