図3-15 プラズマ断面図(a)と温度分布(b)及びプラズマ温度(c)と電場(d)の時空間構造(等高線)
ITERに代表される装置では、経済性の高い核融合炉の実現を目指して、建設コストに直接反映するプラズマ閉じ込め用の磁場強度を極力抑えつつコンパクトで高出力を得られるプラズマ閉じ込め方式が世界各国で開発されてきました。
そのひとつの手法(ITERの標準運転として規定されている)がプラズマ境界近傍で発生する「輸送障壁」と呼ばれる断熱層を利用するものです。図3-15プラズマの温度分布図(b)に示すように、輸送障壁のある閉じ込め改善モードでは、通常モードと比べてプラズマの温度と密度が周辺部で棚上げされて、プラズマ圧力(温度×密度)が約2倍上昇します(核融合出力は約4倍上昇)。この現象には、プラズマ境界に発生する“電場”が重要な役割を果たしていることが理論的にも予測されています(図3-15(a))。ITERのような自律性の高い核燃焼プラズマでも確実に閉じ込め改善モードを発生させ、その状態を制御するためには、電場の発生機構を理解する事が重要な鍵となります。
今回JT-60装置では、ITERに近い磁場条件を模擬して閉じ込め改善モードを発生させて、プラズマ境界部における電場の詳細な時空間構造を高時間・空間分解能を持つ分光計測器を用いて明らかにしました。
図3-15プラズマの温度(c)及び電場の強度(d)の等高線図では、時刻0.0 sで電場が発生して閉じ込め改善モードへの移行後に輸送障壁部の温度が上昇していますが、その途中(0.3〜0.5 s付近)で電場の強度が急激に変動する(約2倍)複雑な振る舞いが観測されました。閉じ込め改善モードの初期状態(時刻0.0〜0.3 s)では、電場の強度と輸送障壁部の温度とがほぼ1対1に対応して成長していることに対して(理論モデルの予測通り)、時刻0.3〜0.5 s付近では電場の強度が約2倍変動しているにもかかわらず輸送障壁はある程度成長した状態で緩やかに成長し続けている事が分かります。
これらは閉じ込め改善モードに関する従来の理論モデルでは予測できなかった実験結果で、世界に先駆けた新しい知見です。現在、電場の多段階的構造の発生条件を解明するために、外部制御によって電場を変化させた場合のプラズマの応答に関する解析を進めています。