図3-16 トカマク装置における中性粒子ビーム(NB)電流駆動の原理と乱れによる高速イオンの輸送
図3-17 実験的に評価したNB駆動電流の理論値との比の、NB入射エネルギーと電子温度の比(Eb/Te)に対する依存性
トカマク装置では核融合に必要な超高温のプラズマをプラズマ中に流れる電流(プラズマ電流)の作る磁場によって閉じ込めます。閉じ込められたプラズマの性能はプラズマ電流の空間的な分布に依存することが知られています。図3-16のように中性粒子ビーム(NB)をプラズマ中に入射すると、プラズマとの衝突で電離して高速イオンとなり、トーラス状のプラズマ中を周回して電流を発生します(NB電流駆動)。NB電流駆動は高性能プラズマに最適なプラズマ電流の分布を作り維持するために必要です。
このNB駆動電流が理論通りに流れるかはITERの目標とする定常運転シナリオの実現にかかわる重要事項です。理論の検証のためには、入射エネルギー(Eb)等のNBのパラメータやプラズマが大きく異なるトカマク装置を活用して広範なパラメータ領域でNB駆動電流を測定し理論値と比較する必要があります。そこで私たちは全世界的な核融合プラズマ研究コミュニティである国際トカマク物理活動を主導して、世界の主要なトカマク装置(AUG(独国),DIII-D(米国),JT-60U(日本),MAST(英国))による比較実験を企画・実施しました。
測定したNB駆動電流はおおむね理論と一致しましたが、強い加熱や電流駆動をして電子温度Teやプラズマ圧力が高くなる場合には実験値が理論値よりも小さくなる傾向が見られました。これはプラズマ中に発生する乱れが高速イオンに影響するためと考えられます。そこで乱れの一種である電場の乱れが高速イオンに与える影響の指標 (Eb/Te)を横軸にとり、実験的に評価したNB駆動電流の理論値からのずれを調べたところ、三つのトカマク装置の結果は一つのトレンドに乗ることが分かりました(図3-17)。グレーで示したITER定常運転シナリオで想定されるEb/Teの近くでは測定誤差の範囲内で理論値と一致しましたが、Eb/Teが更に減少すると実験値が理論値に対して減少する傾向が見られました。ただしこの領域では、もう一つの乱れである磁場の乱れが高速イオンに与える影響の指標であるベータ値(プラズマ圧力)も高くなる傾向にありましたので、電場あるいは磁場の乱れのいずれが支配的かを同定するには至っていません。このため、Eb/Teとベータ値の効果を切り分ける実験、乱れの強さの直接測定及び、乱れの高速イオンへの影響を評価する手法を検討しています。