3-8 核融合反応によるプラズマの回転生成の可能性を探る

−アルファ粒子による自発的なトルク生成−

図3-18 等方に生成されたアルファ粒子密度の分布

図3-18 等方に生成されたアルファ粒子密度の分布

楕円形に見えるのはプラズマの断面形状であり、同心円状に同色が分布していることから、アルファ粒子は円周方向に対して均等に発生していることが分かります。また、プラズマ圧力の高い中心でより多くのアルファ粒子が生成しています。

 

図3-19 アルファ粒子が作るトルク密度の径方向分布

図3-19 アルファ粒子が作るトルク密度の径方向分布

アルファ粒子密度の高い領域で、正(プラズマ電流方向)の衝突減速トルクと負の径方向電流トルクが生じており、数値誤差の範囲内で両者は打ち消しあっていることが分かります。左の網掛けの部分は統計誤差が大きく結果が有意でない部分を表しています。

高圧力の核融合プラズマを定常に維持するためには、プラズマに内在する様々な不安定性を抑える必要があります。不安定性抑制の有力な候補としてトーラス状のプラズマを大周(トロイダル)方向に回転させる方法があり、現在のトカマク実験では中性粒子ビーム入射(NBI)で生成された高速粒子によるトルク入力によって回転を制御しています。ところが核融合炉ではNBIによるトルクが現在ほど高くないことが分かっており、核融合反応で生成される高エネルギーのアルファ粒子が自発的なトルクを生むかどうかに関心が集まっていました。

高速粒子が作るトルクには、高速粒子とプラズマ粒子の衝突による衝突減速トルクと、磁場中の高速粒子の運動が引き起こす電流による径方向電流トルクがあります。アルファ粒子はNBIが作る高速粒子と異なり方向に偏りを持たず等方に生成されるため(図3-18)、いずれのトルクも生まないと考えられてきました。高速粒子軌道を追跡する大規模計算コードOFMCを改良して径方向電流トルクを正確に評価できるようにしたのち、核融合原型炉サイズのプラズマにおいてアルファ粒子の挙動を調べたところ、アルファ粒子生成分布が中心にピークした空間勾配を持つために、衝突減速トルクと径方向電流トルクはいずれも有限であることが分かりました。これらの大きさはNBIによるトルク入力と同程度でしたが、トルクの向きは前者がプラズマ電流と同方向、後者が逆方向となって鏡対称の分布を作るため、足し合わせた正味のトルクはゼロとなりました(図3-19)。この事実は、理想的なトカマクではアルファ粒子による自発的なトルクは生じないことを表しており、トロイダル角運動量の保存と符合します。

しかし、このことは同時に実際の核融合炉において正味のトルクが生じることも意味しています。現実のトカマク装置ではトロイダル磁場コイルの数が有限であるためにトロイダル方向に磁場のリップル(微小な凸凹)が生じており、リップルは高速イオンの径方向輸送を増加させるため、主に径方向電流トルクが増加します。そのため、理想的な状態では釣り合っていた両トルクのバランスが崩れ、プラズマ電流と逆方向の正味のトルクが生成されます。装置ごとに異なるこのトルクを見積もることで、はじめて不安定性の抑制に必要なトルクの追加分を評価することができるため、核融合炉の設計に影響する重要な成果となっています。