4-9 レアアースの国産化に向けて

−放射線グラフト吸着材による温泉からの資源採取の検討−

 

図4-17 グラフト吸着材のスカンジウム(Sc)に対する捕集時間依存性

図4-17 グラフト吸着材のスカンジウム(Sc)に対する捕集時間依存性

源泉(94 ℃)と温泉排水(30 ℃)中にグラフト吸着材を23時間浸漬させ、溶けているScに対する捕集能力を調べました。波線は天然の鉱石中に存在するScの濃度です。

 

図4-18 温泉水中におけるグラフト吸着材のScに対する捕集能力

図4-18 温泉水中におけるグラフト吸着材のScに対する捕集能力

直径7 mmと155 mmのカラムに吸着材を充てんし、通液速度の影響を調べました。捕集能力はカラムの大きさや液を流す速度(空間速度:SV)に依存しないことが分かりました。

今日、我が国はレアメタルを100%近く海外に依存しており、いかにレアメタル類を確保するかが産業界の重要な課題になっています。レアメタルの中でもレアアースはスカンジウム(Sc)、イットリウムからルテチウムまでの17元素を指しますが、地殻中の存在量が比較的多いものもあります。しかし、これらを鉱石から単離する際には、取扱いが困難な放射性物質が生成され、その処理が産業化の妨げになっているとも言われています。そこで、私たちは放射性物質が発生することなくレアアースを確保する方法を検討しました。

着目したのは温泉です。我が国は有数の火山大国であり、世界の活火山のうち約1割が分布しています。その中でも自然湧出量が日本一とも言われている群馬県・草津温泉の源泉の多くは、pH1〜2付近と強い酸性であることから、湧き出る温泉中には非常に多くの金属が溶けこんでいます。これらの金属の温泉水中の溶存濃度は極めて低いものの、ほぼ無尽蔵に湧出してくることを考えれば、総量は膨大であるといえます。そこで、Scやバナジウムといった金属に着目して、溶けている金属を捕集可能な材料の開発を進めました。Scとバナジウムに対して吸着性能が良好な二種類の官能基を繊維状の不織布基材に導入して吸着材を作製し、その捕集能力を実際に草津温泉で試験しました。試験では水温94 ℃の源泉及び30 ℃の温泉排水を用いました。源泉と温泉排水中に吸着材を浸漬させた際のScの吸着量は、わずか1日浸けるだけで高品位な鉱石中のSc濃度(100 mg/kg)と比較して温泉排水中では2倍、源泉においては15倍に濃縮できることが分かりました(図4-17)。これは、源泉や温泉排水中の濃度と比較すると、1万から4万倍に濃縮できたことになります。同様にバナジウムについても、1万倍程度吸着材中に濃縮できることが分かりました。この結果を受けて通液試験をしたところ、温泉排水中に溶けているScを95%以上捕集することができました(図4-18)。また、吸着材の基材に不織布を用いたことで、圧力損失が小さく通液速度に影響されないことが分かりました。このことは、装置の設置スペースを小さくできることにつながることから、狭窄地が多い温泉街においても適応可能な見通しが得られました。現在、採取コストに重要な吸着材の繰り返し使用耐性評価を終えたので、今後コスト試算をしていく予定です。