図6-9 URu2Si2の高圧下における電気抵抗と温度の関係
図6-10 URu2Si2の高圧下電気抵抗の解析結果
超伝導は、固体中の電子が引き起こす現象の中でも、最も量子効果が現れたものです。超伝導の実現には、二個の電子を結びつける引力が必要で、鉛など単体金属の超伝導体では結晶格子の振動がその役割を果たします。一方、銅酸化物高温超伝導体など、電子間斥力の強い電子系ではより強い引力を必要とし、超伝導状態の熱力学的特性は通常の超伝導体と著しく異なります。また引力の起源として、格子振動は不十分であると考えられています。
ウラン化合物URu2Si2はそのような物質のひとつです。その超伝導が実現するためには、正体不明の電子系の秩序相がかかわっていることが分かっています。ところが、その秩序相の詳細は、発見から25年経過しても不明であり、「隠れた秩序相」と呼ばれています。最近の研究で、この秩序相では電子系の対称性が破れていることは解明されていましたが、電子系がどのような秩序を形成しているかは依然として不明であり、URu2Si2の超伝導の起源についても手がかりがない状態でした。
私たちは、超伝導を担う電子がどのような環境におかれているのかを調べるために、電子が受ける散乱、つまり電気抵抗を測定しました。さらに、圧力を加えたときの、超伝導転移温度(T sc)の変化と電気抵抗の関連に注目しました(図6-9)。圧力を加えると、Tscは低下していきます。ここで、電気抵抗を、不純物散乱による寄与ρ0と、通常の電子散乱の寄与α2T 2、異常な電子散乱の寄与α1Tの和として表されると仮定して電気抵抗を解析しました。この理論式(ρ0+α1T+α2T 2)を用いてデータを解析した結果を図6-9に点線で示します。係数α1,α2をそれぞれの圧力で決定しました。
その結果、図6-10に示すとおり、一次と二次の散乱項の係数の比率α1/α2はTscと比例関係にあることが明らかになりました。α2はほとんど圧力に依存しないため、異常な電子散乱の寄与α1と超伝導転移温度Tscの間にほぼ比例関係が成立することを意味します。これは、URu2Si2の異常な電子散乱及び超伝導の起源が同じルーツを持つという「隠れた秩序」の新たな側面を示唆するもので、今後超伝導機構の研究を進めていく上で重要な鍵を提供することは間違いありません。
多くの電子が存在する固体の中では、超伝導をはじめ、多様な現象が見られます。私たちの研究は、これらの現象の理解に結びつく新しい概念を提供するものと期待されています。今後も、普遍的な物性理論構築に結びつく概念を提供していきたいと考えています。