7-10 加速器中性子を利用して医療用のRIを作る

−革新的な医療用RI生成法の開発−

図7-25 加速器中性子によるRI生成法の概念図

図7-25 加速器中性子によるRI生成法の概念図

加速器ビームを用い生成した高速中性子を試料に照射すると、原子核は高温になり、中性子や陽子やHeを放出して多様なRIを生成します。試料と原子番号が異なるRIは、化学分離で医療に適した高品質化ができます。

 

図7-26 RI生成に有効な加速器中性子

図7-26 RI生成に有効な加速器中性子

加速器中性子は重陽子ビーム方向に放出されるため、RI生成に有効に利用できます。図は、生成される99Moがビーム方向に沿って多く作られていることを示しています(99Moの量は、紫から赤、黄となるにしたがい多くなることを示しています)。

99Mo(半減期66時間)の娘核99mTc(半減期6時間)のように半減期が数日程度の放射性同位元素(RI)は、核医学の診断・治療に重用されています。99mTcは、がん等の診断に、我が国で年間90万件利用されています。現在、多くの医療用RIは輸入されていますが、海外のRI製造用原子炉が、高経年化への対応で長期に運転停止し、短半減期RIの輸入が困難を来たしつつあります。そのため、医療用RIを将来にわたり安定に確保する方法の確立が、我が国のみならず世界的に喫緊の課題になっています。

私たちは、「加速器中性子を利用して医療用RIを作る」という新しい医療用RI生成法を提案しました。その概念を図7-25に示します。

医療用RIを生成する核反応を選ぶ際に考量すべきは、RIの放射性核純度,放射性化学純度,放射能濃度等に厳しい規制値がある点です。私たちの方法が、上記課題に対しどのように有効なのかを、100Mo試料と中性子との反応断面積を例に見てみます。この反応断面積は、中性子エネルギーが、〜10 MeVから20 MeV近傍までは、99Moを生成する(n,2n)反応が主であり、不要RIはほとんど生成されません。ところで、一般には原子番号が50程度以下の試料では、陽子やHeを放出する反応断面積も大きく、化学分離等で上記規制値を満たすRIが生成できます。そこで、10〜15 MeVの準単色エネルギーの高強度中性子があれば、医療用に重要な多様なRIの生成が可能です。

その中性子ですが、原子力機構の核融合中性子源施設(FNS)では、毎秒3×1012個の世界最高強度の14 MeV中性子を得ることができます。一方、重陽子ビームを炭素と反応させ、更に高強度の毎秒1015個の14 MeV中性子を生成する加速器が、原子核物理実験用にフランスで建設中です。この反応による中性子は、重陽子ビーム方向に強く放出されます。実際、99Moを例に、その相対生成量分布を計算したところ、99Moは重陽子ビーム方向に沿って多く生成され、中性子が有効利用できることが確認されました。(図7-26)。この中性子を、例えば二層に置いた異なる種類の試料に照射すれば多様なRIの同時生成も可能です。

加速器中性子を利用したRI生成法は、革新的方法であり、核医学・薬学分野に新たなフロンティアを形成するとともに、海外への展開が期待されます。