私たちは、低炭素社会の実現を目指して、高温ガス炉の非電力分野での利用を図るための研究を進めています。
我が国の二酸化炭素(CO2)排出量の約70%は運輸,鉄鋼,化学・石油等の熱利用分野に起因しており、大幅なCO2の排出削減を図るためには、これまで原子力が利用されていなかった熱利用分野での原子力利用が不可欠です。今後、熱利用分野で原子炉の熱により製造する水素を利用することで低炭素社会の実現に貢献できます。具体的には、運輸における燃料電池自動車,鉄鋼における水素還元製鉄等の水素の利用並びに化学・石油工業における水素及び高温蒸気の利用が挙げられます。
また、開発途上国における急速なエネルギー需要の増大に対応し、世界的規模でのCO2の排出削減を図るためには、安全性に優れ(トピックス8-1)、発電に加えて多様な熱利用が可能な小型炉の導入が必要です。
高温ガス炉は、900 ℃を超える熱を取り出せることに加えて、安全性,経済性にも優れた原子炉であり、高温ガス炉水素製造システム研究開発として、(1)高温ガス炉技術基盤の確立を目指した研究開発及び(2)核熱による水素製造の技術開発を行っています(図8-1)。
(1)については、我が国初の高温ガス炉である高温工学試験研究炉 (HTTR:原子炉出力30 MW,最高原子炉出口冷却材温度950 ℃)を用いて、実用化に必要なデータを蓄積し、動特性などの評価手法の高度化を進めています。2011年1月に異常状態を模擬した試験として、原子炉出力9 MWの定常運転状態からすべての1次ヘリウム循環機を停止させると同時に、2系統の残留熱を除去する設備の内、1系統を停止しました。循環機停止後、原子炉出力は速やかに零の状態へ低下し、原子炉圧力容器や原子炉構造物温度は事前解析結果の範囲内であることを確認しました。
(2)については、水から水素を製造する熱化学法ISプロセスに係る研究開発を進めています。一般に、水の熱分解では、水素と酸素を切り離すのに約4000 ℃の熱が必要ですが、ISプロセスは化学反応を利用することで、900 ℃前後の熱で水を分解できる水素製造方法です。この方法で、2004年に30 L/hの水素を一週間にわたって、連続かつ安定して水素を製造することに成功しており、現在、実用装置材料を用いた反応系機器の健全性確証を進めています(トピックス8-2)。