図8-2 高温ガス炉ガスタービンシステム
図8-3 炉容器冷却設備
図8-4 冷却材喪失事故時の燃料温度(解析)
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子炉の安全性は、今後の原子力エネルギー利用の存亡にかかわる最重要課題と考えられます。原子炉の冷却材として化学的に不活性で燃料や構造材と化学反応せず、かつ放射化しないヘリウムガス、減速材として耐熱性の高い黒鉛を用いる高温ガス炉は、全交流電源喪失、冷却材喪失等の過酷な事故が起こっても、後述する優れた固有の安全性により原子炉が安全に静定し、炉心溶融を起こさない安全性の高い原子炉です。
私たちは、我が国初の高温ガス炉であるHTTRの建設,運転で培った技術に基づき、実用炉として高温ガス炉ガスタービンシステム(GTHTR300)(図8-2)の設計,開発を進めています。燃料には、1600 ℃以下では破損しない耐熱性の高いセラミックスで酸化ウランを四重に被覆した被覆粒子燃料を用い、この被覆層で核分裂生成物を閉じ込めます。これは、高温ガス炉固有の特徴です。運転中に何らかの異常によって制御棒が引き抜かれた場合にも、負の反応度フィードバックによって核分裂が収束するとともに、燃料は、制限温度(1600 ℃)に対して大きい温度余裕があるため破損を起こしません。また、配管等の破断による冷却材喪失、若しくは全交流電源喪失により冷却機能が失われた場合においても、受動的な炉容器冷却設備(図8-3)を用いて原子炉圧力容器の外側から空気の自然対流やふく射で残留熱を除去することができ、燃料の最高温度は制限温度を超えず、破損を起こさないことが解析で確認されています(図8-4)。これは、炉心の出力密度が低いことと、高温ガス炉固有の特徴である炉内の黒鉛構造物の大きな熱容量及び高い熱伝導特性によります。さらに、使用済燃料については、出力密度が低く貯蔵時における単位体積あたりの発生熱量が少ないため、貯蔵プールを用いない乾式貯蔵が可能であり、全交流電源喪失事故時にも、冷却機能喪失の心配がない自然循環空冷方式を採用できます。
実用炉の設計に加えて、HTTRを用いて運転時の異常な過渡状態及び事故を模擬した試験を順次実施し、高温ガス炉の優れた安全性を実証してきました。今後は、全交流電源喪失事故等を模擬した試験を実施する予定です。
これらの研究開発を通じて、我が国及び国際社会に受け入れられる安全性の優れた高温ガス炉の実用化を目指します。