図7-23 建物周辺の平均風速の様子
図7-24 建物周辺の物質拡散の三次元濃度分布の様子
1995年の東京都での猛毒化学物質の拡散テロや、2001年米国での同時多発テロなどによる国内外でのテロ脅威の拡大を背景に、都市域での有害危険物質(放射性物質・化学物質)の拡散災害対策の立案が緊急課題として挙げられています。大気中の物質の拡散は、気象条件や都市建築構造物の存在による乱流の影響を強く受け、濃度の時間変化は非常に激しくなります。そのため、領域気象予報モデルと計算流体力学モデルを組み合わせることで、特定の気象条件下での都市市街地内における有害危険物質の拡散挙動を正確に予測することが求められます。しかし、これまでの都市拡散予測に関連する研究の多くは、時間平均型の乱流モデルを採用していました。この乱流モデルは、実用性は高いものの、建物屋根面での剥離流の再現性や最大濃度の評価に課題があります。特に人体にとって有害性・危険性の強い拡散物質に対しては、時間平均濃度のみならず最大濃度を含めて評価することが求められますが、従来の拡散モデルでは濃度の非定常挙動を捉えることはできませんでした。
私たちは、この解決のため非定常現象の予測に優れたLarge-Eddy Simulation(LES)モデルに基づく、都市域を対象にした局所域高分解能大気拡散モデルLOcal scale High-resolution DIspersion Model using LES(LOHDIM-LES)を開発しています。このモデルでは、LESを採用することで、平均濃度のみならず最大濃度の予測も可能となることが期待されます。
まず、試計算として、建物周りの乱流拡散を対象にしたシミュレーションを行いました。図7-23,図7-24は単独建物周りの時間平均風速(剥離・循環流構造を見やすくするため、あえて時間平均で表示)、物質拡散の三次元濃度分布の瞬間場の様子を示しています。建物屋根面では流れの剥離、後方では循環流が生じています。そのため、拡散挙動も複雑になり、上流側から運ばれてきた有害危険物質はまず建物に衝突し、循環流の影響により建物後方に巻き込まれて充満している様子が分かります。このLESモデルによる平均濃度及び最大濃度は、風洞実験結果を良好に再現することに成功しています。
このようにLOHDIM-LESの基本性能が実証されたので、今後は実市街地内での拡散解析への展開を図っていきます。