7-8 試料に触れずに直接同位体の組成を調べる

−レーザー遠隔分光法による核燃料物質の同位体分析法の開発−

図7-21 原子密度の高さ方向分布の時間変化

図7-21 原子密度の高さ方向分布の時間変化

ヘリウムガス600 Pa中で生成した原子雲の密度の高さ分布を、原子雲発生後4 μsまでの範囲で示した図です。赤線は基底状態の中性原子、青線は基底状態の1価イオンを表します。縦軸は各図に共通で、○印の時間と高さで原子やイオンの密度が最大になることが分かりました。

 

図7-22 吸収スペクトルの観測例(天然及び濃縮ウラン)

図7-22 吸収スペクトルの観測例(天然及び濃縮ウラン)

図7-21の赤○の条件に合わせて測定した基底状態の中性原子の吸収スペクトルを密度に換算した図です。235Uのピークの高さは、%で表した235Uの同位体比に良く比例することが分かりました。なお、235Uのピークが分裂しているのは核スピンによる効果です。

次世代燃料としてMA含有MOX燃料が注目されています。核燃料物質の収支評価や核物質利用の透明性確保には核種分析が不可欠ですが、含有核種からの強いγ線や中性子線による分析要員の被ばく、放射線の干渉等により、従来の化学分析や中性子による非破壊分析の適用は困難です。そこでレーザーを利用して、試料に直接触れず、中性子も要しない分析法の開発を開始しました。

固体に強いパルスレーザー光を照射すると、表面の一部が離脱してプラズマ内で単原子やイオンに分解され、原子雲が作られます。この原子雲に、発振波長を精密に制御したレーザー光を導入し、着目する同位体の共鳴波長に同調させると、その同位体のみが光を吸収します。同調波長を他の同位体に切り替えて吸収量を比べれば同位体比が決定できます。

高分解能で高感度の分析を実現するためには、密度が高く、動きの遅い原子雲を観測する必要がありました。しかし、原子雲中の中性原子やイオンは、エネルギー準位が基底準位から高い励起準位まで広く分布し、その分布も逐次変化しながら空間的に移動します。そこで、レーザーの精密な波長制御機構を開発して、エネルギー準位ごとの密度の時間、空間的な変化を測定し、これによって高分解能でかつ高感度な分析が実現できる条件を調べました。図7-21はガス中の中性原子と1価イオンの原子密度の高さ方向分布とその時間変化を示しています。高密度領域は時間とともに膨張するものの、一定時間後に停止し、脱励起の促進により、過渡的に更に高密度化する様子が明らかとなりました。これにより最適な分析条件として、○印で示した高さと時間が決定できました。赤○の条件でウランの吸収スペクトルを測定したところ、図7-22のように、同位体同士のピークの重なりが小さく、分析に適したスペクトルの観測に成功しました。天然ウラン程度の同位体比を試料に触れずに分析できることを初めて示したものです。235Uのピークの高さは、同位体比に比例して変化しており、良好な線形性を持つことも確認できました。

現在、この方法をMOX試料に適用し、プルトニウム同位体の遠隔分析の実証を目指しています。

本研究は、文部科学省からの受託研究「低除染TRU燃料の非破壊・遠隔分析技術開発」及び「次世代燃料の遠隔分析技術開発とMOX燃料による実証的研究」の成果です。