7-7 原子炉材料の照射誘起応力腐食割れを予兆段階で検知する

−磁気センサーを用いた材料劣化の診断法に関する研究−

図7-18 I型コアセンサープローブ(左写真)とその特性の数値解析結果

図7-18 I型コアセンサープローブ(左写真)とその特性の数値解析結果

数値解析と模擬実験により、磁束密度が励磁コイルに集中し、材料劣化による磁気特性変化を最も捉えやすい設計条件で作製しました。

 

図7-19 磁気データとIASCC感受性の相関

図7-19 磁気データとIASCC感受性の相関

六種の組成の高純度ステンレス合金を中性子照射した試験片等でIASCC感受性と正の相関のある磁気データが取得できました。

 

図7-20 磁気測定データとIASCC感受性の相関のメカニズム検討

図7-20 磁気測定データとIASCC感受性の相関のメカニズム検討

照射誘起偏析による結晶粒界でのCr欠乏,Ni富化による磁性相生成が、磁気パラメータの変化と粒界の耐食性劣化の両方をもたらすことが、磁気測定データとIASCC感受性の相関のメカニズムであることが分かりました。

これまでの発電用軽水炉のトラブルには構造材料の損傷に起因するものが多くあり、設計段階で予測できなかった損傷事例として応力腐食割れ(SCC),照射誘起応力腐食割れ(IASCC)等があります。

現在軽水炉の損傷診断に用いられている超音波探傷法渦電流探傷法等は、いずれも既に材料中に発生した微細なき裂を検知する診断法です。一方、き裂発生以前の「予兆」を検知できれば、原子炉構造材料の健全性の確保に大きな貢献が期待されます。

そこで、実機への適用性が高い渦電流法及び交流磁化法を用いて、IASCCの「予兆」診断を磁気測定により行う可能性を検討しました。まず、図7-18に示すI型コアセンサープローブの開発を行いました。その際、設計条件の最適化のために数値解析及び模擬試験片の測定等による性能評価実験を行いました。また、原子炉メンテナンス時の使用環境への耐性を実験により確認しました。さらに、これを搭載した遠隔磁気測定装置を開発し、性能の検証を行いました。

六種類の組成の高純度ステンレス合金を約1 dpa及び5 dpaまで中性子照射した試験片と、実機と同等のSUS316Lステンレス鋼をIASCC発生のしきい照射量である1 dpa前後の三種類の照射量まで中性子照射した試験片を用いて検証実験を行いました。渦電流法及び交流磁化法による磁気測定の結果得られた磁気データは、いずれもIASCC感受性(IASCCの発生原因となる中性子照射による材料劣化の程度)のデータと正の相関があることを明らかにしました(図7-19)。

更にその相関のメカニズムを明らかにするため、中性子照射した試験片と模擬試験片の微細組織と磁気特性の関係について、実験評価及び数値解析評価を行いました。その結果、照射誘起偏析による結晶粒界での組成変化に基づく磁性相の生成がIASCC感受性と磁気データの相関のメカニズムであることを明らかにしました(図7-20)。

本研究の成果は、IASCCにつながる材料劣化を予兆段階で検知可能とする診断技術に適用可能であり、原子炉の安全性,信頼性の向上に貢献できる成果であると考えています。

本研究は、文部科学省からの受託事業「超臨界圧水冷却高速炉の炉内構造材劣化予兆診断技術の開発」の成果であり、本研究を取りまとめた論文は2011年に日本保全学会の論文賞を受賞しました。