9-2 超臨界流体を用いた放射性廃棄物の除染法の開発

−超臨界二酸化炭素中での逆ミセル形成とその利用−

図9-4 超臨界流体を利用した除染のしくみ

図9-4 超臨界流体を利用した除染のしくみ

廃棄物中のウランを、反応容器内で超臨界二酸化炭素に同伴させた添加剤と反応させ、超臨界二酸化炭素中に溶解します。この超臨界二酸化炭素を外部に導き、減圧して炭酸ガスとすることでウランを回収します。また、炭酸ガスは再利用できます。反応容器内には除染された廃棄物が残ります。

 

図9-5 超臨界二酸化炭素中の逆ミセルの模式図

図9-5 超臨界二酸化炭素中の逆ミセルの模式図

超臨界二酸化炭素中で界面活性剤が水を取り囲み、逆ミセルが生成されます。逆ミセル内部の水中に存在する酸と金属酸化物が反応して金属を超臨界二酸化炭素中の水に溶解できます。右写真は逆ミセルを用いて水に溶けやすい指示薬(メチルオレンジ)を超臨界二酸化炭素中に溶解させた様子です。

 


放射性廃棄物の処理処分において、その費用を低減することや処分時の安全性を高めるために、放射性廃棄物の量を減らす必要があります。そのための技術開発の一環として、放射性核種を廃棄物から取り除く除染法の開発を進めています。

除染法の開発要件のひとつに、除染に伴う二次的な廃棄物の発生の抑制があります。そこで私たちは、通常は気体の炭酸ガスとして存在する二酸化炭素(CO2)を加温加圧して超臨界状態にし、これを分離媒体としました。超臨界CO2を炭酸ガスに戻すと、物質を溶解する能力がほとんどなくなり、除染した物質とCO2を容易に分けられることからCO2が廃棄物とならず、二次的な廃棄物量を大幅に低減できます。既に超臨界CO2に可溶な硝酸とリン酸トリブチルの錯体を添加剤として用いる方法でウランの除染に成功しています(図9-4)。しかし、超臨界CO2に溶解できる添加剤、特に反応性が高い添加物には限りがあり、極めて安定な化合物であるプルトニウム酸化物の除染に超臨界CO2を利用することは困難でした。

超臨界CO2中に反応性が高い添加剤を導入するために、界面活性剤を用いて超臨界CO2中に逆ミセルを生成させる手法を開発しました。逆ミセルとは、界面活性剤分子の水になじみにくい疎水基を外側に、水になじみやすい親水基を内側にして水を包み込みこんだ微細構造物です(図9-5)。逆ミセル内部の水に酸や還元剤などを溶解させることによって超臨界CO2中へ反応性の高い添加剤を導入できます。

数種類の界面活性剤を用いて検討を重ね、硝酸や金属塩を溶解した水を含む逆ミセルを超臨界CO2中に形成することに成功しました。また、安定な逆ミセルの形成には界面活性剤の親水基の極性と疎水基の大きさが重要であることや、より高濃度の酸や水を含有する逆ミセルを形成するための圧力や温度、界面活性剤の濃度などの条件を明らかにしました。さらに、この反応性を高めた逆ミセルを用いて金属化合物の直接溶解を試み、ユウロピウムの酸化物を超臨界CO2に溶解することに成功しました。

今回の成果によって、超臨界CO2中の逆ミセルを反応場とする新しい除染法を展望することができました。今後は更に界面活性剤の種類や試験条件を検討し、プルトニウムで汚染された放射性廃棄物の除染法となるように開発を進めていきます。