1-1 大気中へ放出された放射性物質

−WSPEEDIを用いた放出量推定と拡散シミュレーション−

図1-4 I-131とCs-137の放出率の推定結果

図1-4 I-131とCs-137の放出率の推定結果

3月12日,14日,15日に、特に放出率が大きく増加したことが分かります。

 

図1-5 WSPEEDIを用いて計算した東日本域のCs-137の地表面沈着量

図1-5 WSPEEDIを用いて計算した東日本域のCs-137の地表面沈着量

評価結果は、各都道府県で測定された降下量(図中の数字)と良く一致していることが分かります。

2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所(1F )事故によって、大量の放射性物質が大気中へと放出されました。この事故による環境影響の把握や、公衆に対する被ばく線量の評価等が緊急の課題となっています。

私たちは、事故が発生してから、緊急時環境線量情報予測システム世界版(Worldwide version of System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information:WSPEEDI)を用いて、放射性物質の大気への放出量の推定や、大気中の拡散・沈着過程の解析を進めています。WSPEEDIは、国内外の放出点から数10 km程度の狭域から半地球規模の広域までにおける放射性物質の大気中の移動・拡散・沈着や被ばく線量を高精度に評価できます。

WSPEEDIを用いたシミュレーション結果と、環境モニタリングデータを比べることにより、大気への放射性物質の放出率を推定しました。図1-4は、2011年3月12日から4月5日までの131Iと137Csの推定された放出率の時間変化を示しています。3月12日,14日,15日に放出率の増加は、1F1や1F3の水素爆発や1F2の原子炉圧力の低下等の炉内事象に対応していると推定されます。3月23日以降、徐々に放出率が減少したことは、原子炉の状態が安定して大気への放出が低減したためと考えられます。

図1-5は、推定した放出率とこの期間における気象条件を基にWSPEEDIを用いて計算した3月12日から4月1日までの137Csの地表面沈着量の分布を示しています。このシミュレーションの結果を解析し、主に3月15日から16日の乾性沈着と湿性沈着、3月20日から21日の湿性沈着によって、現在の東日本域の沈着量や線量の分布が形成されたことを明らかにしました。

本研究の成果は、原子力安全委員会等へ提供し、IAEAへの日本政府の報告書に記載されるなど、国の事故対応に活用されました。