図1-37 スリーマイルアイランド2号機から採取した溶融燃料
図1-38 デブリの熱拡散率の温度依存性
東京電力福島第一原子力発電所(1F )での事故においては、原子炉炉心温度が非常に高くなったために燃料の溶融が起こりシビアアクシデントに至りました。溶融燃料の取り出し等の廃止措置が進められていますが、燃料がどのような形で原子炉施設のどこにあるのかを推定する上で、また事故の進展を解析する上で、炉心を構成する他の金属等とともに溶融し混合した燃料の特性を調べることは重要です。
溶融燃料の特性について最も広範に調査・分析が行われたのは、1979年のスリーマイル島2号機(TMI-2)事故後に炉心から取り出された溶融燃料(TMI-2デブリ)に対するものです。私たちは、約60個のTMI-2デブリを入手し外観観察,密度測定,ミクロ組織観察,元素分析等を行いました。また、熱膨張(温度上昇に伴う物体の長さ・体積の変化),比熱(温度を1度上げるのに必要な熱量),熱拡散率(熱の伝えやすさ),溶融開始温度等の熱特性も測定しました。さらに、TMI-2デブリに似た化学組成と密度を持つ模擬デブリも使用しました。
図1- 37に、測定に使用した代表的な二種類のTMI-2デブリの外観と断面ミクロ組織を示します。VIP-11Aは比較的多くの金属成分を持つデブリであり、VIP-12Aは主にウラン(U)とジルコニウム(Zr)の酸化物からなるセラミックス質のデブリです。図1- 38にTMI-2デブリと模擬デブリについて測定された熱拡散率の温度依存性を示します。金属を多く含むVIP-11Aを除き、1500 K以下の温度では、セラミックス質のTMI-2デブリの熱拡散率はUO2(密度95%)の熱拡散率に比べて明らかに小さく、熱を伝えにくいことが分かりました。TMI-2デブリには、熱拡散率の小さいZrの酸化物が多く含まれること、また熱拡散率を低下させる空隙が含まれていることが、UO2とTMI-2デブリとの間の熱拡散率の大きな差の原因と考えられます。
また、模擬デブリを用いた測定から、デブリの溶融開始温度は約2840 Kであり、デブリに含まれる鉄,クロム,ニッケル,銀の影響は非常に小さいことも分かりました。
私たちは、TMI-2デブリの特性に関する知見を提供するだけでなく、事故条件を模擬した原子炉燃料や材料に関する実験や事故を再現する計算コードを用いた解析を行い、安全かつ効率的に1Fでの廃止措置作業が進められるよう協力していきます。