図1-35 カヤのオートラジオグラフィ分析
図1-36 牧草のオートラジオグラフィ分析
東京電力福島第一原子力発電所事故により森林に降下した放射性核種は、植物や土壌にどのように付着し、その後どのように移動するのか、これらは事故による森林汚染の実態解明と将来予測のために重要な問題です。試料中の放射性核種の分布は、細断した試料の放射能を部分ごとにγ線検出器で測定して求めますが、これには手間と時間がかかります。私たちは、放射能分布を画像化するオートラジオグラフィという技術を用いることにより、植物に付着した放射性核種の分布を調べました。
2011年5月に福島県相馬郡飯舘村において、カヤ,杉,牧草などを採取しました。放射線に反応する蛍光体が塗布された板(イメージングプレート:IP)に植物試料を密着させ、IPに放射線を記憶させました。これを画像解析して、試料の放射能分布像を得ました。
カヤの枝葉(図1- 35(a))の放射能分布像(図1- 35(b))には、枝葉の部分に黒い斑点が数多く検出されました。黒い斑点は、IPが放射線を受けた部分です。5月の時点では131Iは減衰しほとんどなくなっていますから、斑点は放射性Csによるものです。葉の部分には濃い緑色の葉と黄緑色の葉が存在します(図1- 35(a))。濃い緑色の葉は事故以前に生育した古い葉で、黄緑色の葉は事故後に生育した新しい葉です。両者を比べると、濃い緑色の葉には黒い斑点が分布しますが、黄緑色の葉にはほとんどありません。このことから、古い葉に付着した放射性Csが新しい葉にほとんど移らなかったことが分かります。杉の測定でも同様の結果が得られました。
根や土ごと採取した牧草(図1- 36(c))の放射能分布像(図1- 36(d))では、牧草部分には黒い斑点が多く検出されましたが、根や土の部分にはほとんど検出されませんでした。このことは、降下した放射性Csが地表の牧草部分に付着したため、土壌にはCsが到達しなかったこと、また、雨などにより牧草から流出し土壌に移行したCsがほとんどないことを示しています。
本研究で用いた試料は、事故から約2ヶ月後に採取したものです。事故による森林汚染の長期的変化を予測するため、今後も試料採取と分析を継続して行い、植物に付着した放射性Csの長期的挙動を明らかにしたいと考えています。