1-16 水道水摂取制限の被ばく低減効果を検証

−水道水摂取制限による回避線量の評価−

図1-33 水道水中の131I濃度の変化と被ばく線量評価

図1-33 水道水中の131I濃度の変化と被ばく線量評価

福島県5自治体、茨城県東海村,東京都新宿区での水道水中131I濃度は、水道水のサンプリング地点に大きく影響され、見かけの半減期で2.8±1.2日程度で低下することが分かりました。甲状腺等価線量や実効線量も時間が経つとともに、減少しています。

 

図1-34 乳児の水道水摂取制限による回避線量

図1-34 乳児の水道水摂取制限による回避線量

131Iはもとより、その他の放射性核種による内部被ばくの恐れがある状況において、各自治体、特に福島県飯舘村での水道水摂取制限は、甲状腺等価線量8.3 mSv,実効線量4.1×10−1 mSvを回避し、被ばくを低減する有効な手段となりました。

東京電力福島第一原子力発電所事故の影響により、広範囲にわたり放射性ヨウ素131Iなどに関する水道水摂取制限が行われました。しかし、制限解除の規定がなく、その判断は各自治体に委ねられたため、社会的な混乱を招くことになりました。この状況から、水道水による無用な被ばくを回避する適切な防護措置の検討には、水道水中131I濃度変化の特徴を調べるとともに、水道水摂取制限により回避された被ばく線量(回避線量)、つまり防護措置の効果を評価することが重要です。そこで、今後の水道水摂取制限解除の基準策定に役立てるため、今回の事故に直接影響した福島県,茨城県,東京都の水道水中 131Iの濃度変化を調べるとともに、水道水の摂取制限による乳児(1歳)の回避線量を評価しました。

図1- 33に、福島県5自治体(飯舘村,郡山市,川俣町,南相馬市,いわき市),茨城県東海村,東京都新宿区で観測された水道水中131I濃度変化を示します。調査の対象期間は、2011年3月16日〜4月16日までの1ヶ月間としました(飯舘村は、同年5月10日まで)。水道水中131I濃度は、サンプリング地点によって異なりますが、全体的な傾向として、福島県内各地域,茨城県東海村,東京都新宿区いずれの地点においても事故後、時間が経つとともに減少します。水道水中131I濃度変化の減少割合は、見掛けの半減期で2.8±1.2日程度であり、131Iの物理的半減期である8.0日よりも早いことが分かりました。

図1- 34に、各自治体での乳児の水道水摂取制限による回避線量を示します。これは、水道水中131I濃度と乳児の1日当たりの摂水量から乳児の1日当たりの131I摂取量を算定し、それに国際放射線防護委員会(ICRP)による線量係数を乗じて求めた被ばく線量から評価したものです。緊急時被ばく状況が続く中、自治体、特に福島県飯舘村での水道水摂取制限は、甲状腺等価線量8.3 mSv、実効線量4.1×10−1 mSvを回避し、被ばくを低減する有効な手段となりました。また、茨城県東海村などでは、地震による停電や水道管復旧作業で水道水の供給が遅れたため、偶然にも水道水中131Iによる被ばくを低減できました。水道水中131Iが低濃度で、水道水摂取制限が短期間であった東京都新宿区でも、乳児の回避甲状腺等価線量は1.3×10−1 mSvの低減効果がありました。