4-11 プラズマの複雑な振る舞いの解明を目指して

−トカマクプラズマ全体の統合シミュレーションコードの開発−

図4-26 ペデスタル領域の圧力勾配が増加中に固体ペレットを入射した場合(左図)としなかった場合(右図)の分布時間変化

図4-26 ペデスタル領域の圧力勾配が増加中に固体ペレットを入射した場合(左図)としなかった場合(右図)の分布時間変化

ペレットは溶発しプラズマのエネルギーを吸収して圧力分布(上図)に摂動を与え()、局所的にできる急峻な圧力勾配(中図)で不安定性が誘起され拡散係数(下図)の増加により分布が崩壊()します。一方、ペレットがない場合は、圧力勾配がペデスタル領域全体で増加して不安定性を誘起します。ペレットが誘起する不安定性による拡散の増加は局所的なので、エネルギーの掃き出しが低減されます。

 

図4-27 炉心・ペデスタル領域(上図)とダイバータ板前(下図)の温度分布の時間変化

図4-27 炉心・ペデスタル領域(上図)とダイバータ板前(下図)の温度分布の時間変化

ペデスタル領域で輸送が低減され、炉心の温度が増加する()一方、ダイバータ板前の温度が一旦減少()してから増加する()様子が見られます。このようにプラズマ全領域にわたる統合コードにより、プラズマ全体のダイナミクスを調べられます。

核融合プラズマにおいては、多くの現象が相互作用し合って複雑な振る舞いをするため、その挙動を理解し制御することが必要です。そのため、トカマクプラズマを、炉心,ペデスタル,その周辺のダイバータの三つの領域に分け、各領域において実際のプラズマの形状と整合したプラズマの熱・粒子輸送や不安定性等の物理モデリングを行いました。それらのモデルの統合化を進めて、最終的には各領域の相互作用を考慮したプラズマ全体の矛盾のない評価に不可欠な全領域にわたる統合モデルの開発に成功しました。開発したモデルを用いて、以下のように各領域からトカマクプラズマ全体までの様々な挙動を解明し、ITER,JT-60SA,DEMO炉の設計に貢献しています。

(1)炉心モデル開発と統合化 アルファ粒子が引き起こす不安定性によるアルファ粒子の径方向輸送をモデル化し、炉心統合コードに結合して、ITERにおける核融合性能の低減を評価しました。プラズマの回転モデルを開発し、アルファ粒子で駆動される回転の機構を明らかにし、DEMO炉における回転を評価しました。高Z不純物のピンチモデルを開発し、プラズマ電流と逆方向に回転するプラズマで大きな内向き方向のピンチが生じることを示し、未解明だったJT-60U実験におけるタングステン蓄積を説明できました。

(2)ペデスタルモデルの統合化 不安定性コードと固体燃料ペレット入射モデル、ダイバータとの強い相互作用を考慮するために簡易ダイバータモデルを炉心統合コードに結合したペデスタル統合モデルを構築しました。これにより、未解明だったペレットで誘起される不安定性の発生機構を明らかにし、これによりペレットで不安定性によるエネルギー掃き出しを低減できることを示し(図4- 26)、ダイバータ板の熱負荷低減というITERの重要課題を解決する指針を与えました。

(3)プラズマ全領域の統合化 前述の簡易ダイバータモデルをより詳細なプラズマ流体コードと中性粒子/不純物モンテカルロコードで構成されたダイバータ統合コードに変えて炉心統合コードに結合し、全プラズマ領域を矛盾なく統一的に扱える統合シミュレーションコードを開発しました。その結果、プラズマ全体のダイナミクスを調べられるようになり(図4- 27)、炉心プラズマの高性能化とダイバータ板の低熱負荷とが両立する詳細な運転シナリオの研究が可能になりました。