図4-24 イオン液体によるLi同位体分離技術の原理
図4-25 イオン液体による6Li同位体の分離試験結果
核融合炉の燃料として必要なトリチウムは、リチウム(Li)セラミックス中の6Liと中性子との核反応により生産します。しかし、天然のLiは6Liが約7.6%(残りは7Li)しか存在せず、必要なトリチウム量を確保するためには40〜90%に濃縮した6Liが必要です。
海外にて実用化されている6Li濃縮技術は、水銀を用いたアマルガム法のみですが、水銀は有害金属のため、日本では工業化できません。また、吸着材やイオン透過膜を用いた方法では分離係数が低く、さらに、ウラン回収及び同位体分離でも検討された電気泳動法は、連続処理が不可能なことから、それぞれ量産化には不向きです。したがって、日本は6Li濃縮技術を有しておらず、希少な6Liの海外からの輸入も困難であることから、日本独自の6Li濃縮技術の確立は、核融合炉早期実現に向けた最重要課題のひとつでした。
そこで、私たちはLiイオンを透過させるイオン液体と隔膜による電気透析法を融合させることで、6Liを濃縮できることを世界で初めて発見し、これまでの課題を克服した耐環境性,量産性,省エネルギー性に優れた革新的同位体分離技術を確立しました(図4- 24)。天然同位体比のLi水溶液(アノード側)とLiのない溶液(カソード側)間を、イオン液体を含浸した有機膜で隔て、電位を加え、イオン液体中の6Liと7Liの移動速度差により6Liをカソード側に濃縮できます。
イオン液体としてPP13-TFSI(C11H20OF6N2O4S2)を用いた結果では、最高で6Li同位体の分離係数1.4と高い値が得られ(図4- 25上)、さらに、6Li同位体の分離効率を求めた結果、分離係数が1.05〜1.15の間で最も効率良く分離できることが分かりました(図4- 25下)。水銀アマルガム法の分離係数は1.06であることから、既存技術と同等以上の性能を有しています。
現在、本技術を発展させ、海水や使用済み電池に含まれるLiを回収する研究を開始し、内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラムの研究課題として認められ、また、産業界からも大きな期待と注目を受けており、自動車用大型Liイオン電池の増加を想定する電池産業への波及効果が見込まれています。
本研究は、文部科学省からの受託研究「イオン液体含浸有機隔膜によるLi同位体分離技術に関する研究」の成果の一部です。