4-2 世界最高性能のプラズマ計測用レーザー装置の開発に成功

−ITER周辺トムソン散乱計測装置用YAGレーザーの開発−

図4-6 世界のプラズマ計測用レーザー装置の性能比較

図4-6 世界のプラズマ計測用レーザー装置の性能比較

緑色の斜めの線は平均出力を、カッコ内は核融合装置名を示しています。市販のレーザー性能は水色の領域にあり、ITERの要求性能は、それよりも高い所にあることが分かります。

 

図4-7 開発したレーザー装置の外観

図4-7 開発したレーザー装置の外観

レーザー装置の光学機器は、幅1.5 m,長さ4.2 mの防振テーブルの上に配置されています。光っているのは、励起用フラッシュランプの光です。レーザー光は、赤外線のため目に見えません。

原子力機構は、ITER計画において、炉心プラズマの周辺部の電子温度及び電子密度を測定する「周辺トムソン散乱計測装置」の開発を担当しています。トムソン散乱計測とは、強力なパルス状のレーザー光をプラズマに入射し、プラズマ中の電子から散乱される光を分析することによって、電子温度と電子密度を計測する手法です。電子からの散乱光は極めて微弱で、入射レーザー光の1000億分の1程度しか散乱されません。精度良く測定するためには、高いエネルギーのパルス状のレーザー光を発射できるレーザー装置が必要です。また、時々刻々と変化するプラズマの状態を知るためには、高い繰り返しでレーザーパルスを発射する必要があります。この計測装置では、平均出力500 W(1回当たり5 Jのエネルギーを持つレーザー光を毎秒100回発射)のレーザー装置(Nd:YAGレーザー)が必要であり、高出力エネルギーかつ高繰り返し発射が可能なパルスレーザー装置の開発が大きな課題でした。

これまでは、原子力機構で開発した平均出力373 W(7.46 J・毎秒50回)のレーザー装置が世界最高性能でした(図4-6)。ITERで必要なレーザー装置を開発するには、繰り返し回数を2倍に上げる必要がありますが、そのためには、熱負荷の制限から1回当たりのレーザー増幅器への投入エネルギーを半分に下げる必要があります。しかし、投入エネルギーを下げると増幅率が低下してしまい、効率的に増幅器内のエネルギーをレーザー光として引き出せないことが大きな問題となっていました。そこで、サマリウムと呼ばれる金属を添加した特殊なガラスを増幅器内で用いて、増幅率の改善を妨げている光のノイズを選択的に吸収させることにより、半分の投入エネルギーでも従来の約2倍の増幅率を実現しました。その結果、効率良く増幅器内のエネルギーを引き出すことが可能となり、従来の平均出力の2倍となる766 W(7.66 J・毎秒100回)を達成し、ITERの要求性能を越えるレーザー装置の開発に成功しました(図4- 6,4-7)。同装置によりITERでのプラズマ密度・温度の高精度測定が可能になります。

本研究は、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターとの共同研究「ITER周辺トムソン散乱用レーザーのための位相共役鏡の開発」の成果の一部です。