図4-8 ITER NBI用1 MeV負イオン加速器の半割断面図
図4-9 1/4加速器モデルにおける三次元ビーム軌道解析結果
ITER NBI加熱装置の1 MeV(エネルギー100万電子ボルト)負イオン加速器(図4-8)では、長さ1.6 m,幅0.64 mの大面積電極に設けた1280個の孔からペンシル状のビームを同時並行で引出し、40 A大電流ビームを生成します。しかし、負の電荷を持つビーム同士が反発し合ったり、電極の支持構造で電界が歪むことによってビームは曲げられ、電極や加速器下流の機器に当たって高い熱負荷をとなり長時間運転を妨げます。そこで私たちは、三次元ビーム軌道解析でビームがどのように偏向するかを解明するとともにその補正法の確立を目指して研究を進めてきました。
ビーム軌道はエネルギーが低い引出し部で電界の歪みの影響を受けやすいため、解析では引出し部の空間メッシュを細かくして電界の形状を高精度で計算することが必要です。このため、三次元ビーム軌道解析では膨大なメッシュ数と大メモリが必要となり、従来は5本程度のビームの軌道解析が限界でした。そこで、あらかじめ二次元ビーム軌道解析で求めておいたビームの初期位置・速度を三次元ビーム軌道解析に適用して、引出し部の計算過程を簡略化した結果、空間メッシュを粗くしてメッシュ数を減らすことに成功し、原子力機構のMeV級加速器(ビーム本数は15本)モデルで実験結果を良く再現できました。
この解析手法をITER加速器1/4モデルに適用し、図4-9に示すように320本のビームの偏向を解明する世界に類を見ない大規模三次元マルチビーム軌道解析を実現しました。電極支持構造に近い右上の区画から出たビームの分布を加速器出口より下流で見ると、端の孔列のビーム((a)(b))はビーム間の反発で元の孔位置より大きく外側に偏向することが分かりました。これを補正するために、引出し部電極裏面の孔周辺部に高さ1 mmの金属製突起を付けてビームを中心方向に曲げる電界を形成した結果、この偏向を十分補正してビームを直進させることができました。電極支持構造に近い端列のビーム((c)(d))については、金属製突起の代わりに電極支持構造の形状を工夫してビームを中心方向に曲げる電界を形成した結果、偏向が抑制されてビームが元の孔位置直下に到達しました。このように、実験でしか分からなかったビーム偏向を本解析で解明できるようになり、これらのビーム偏向を補正する技術はMeV 級加速器で実証され、ITER加速器に反映されています。
本研究は、ITER機構からの受託研究「ITERタスク No.C53TD48FJ, Physics design of 1 MeV D− MAMuG accelerator for H&CD NB」の成果です。