8-1 放射性同位元素核データの高精度化を目指して

−J-PARC MLF ANNRIにおける244Cmの中性子捕獲反応断面積測定−

図8-4 ANNRIに設けられている検出器の写真

図8-4 ANNRIに設けられている検出器の写真

本検出器を用いることにより、中性子捕獲反応によって発生する即発γ線のエネルギーとその時に捕獲された中性子のエネルギーを同時に知ることができます。

 

図8-5 244Cmの中性子捕獲反応断面積値

図8-5 244Cmの中性子捕獲反応断面積値

ANNRIでの測定結果(●)を評価値(JENDL-4.0、)及び過去の実験値()と比較しています。20 eV以下の二本の共鳴は過去の実験で測定されておらず、世界で最初に得られた実験値です。

核燃料の有効利用による経済性向上や放射性廃棄物の削減による環境負荷低減化を評価するためには、マイナーアクチノイド(MA)や長寿命核分裂生成物の中性子捕獲反応断面積データの精度を向上させる必要があります。これに応えるため、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に中性子核反応測定装置(ANNRI)を整備し、これらの核種の中性子捕獲反応断面積を系統的に測定しています(図8-4)。

重要なMA核種のひとつである、244Cmの測定結果を図8-5に示します。244Cmは過去には1971年の地下核実験での測定値が1件あるのみでした。これは、

  • 比放射能が高いため、強い崩壊γ線により検出器に大きな不感時間が発生し、不感時間の補正による誤差が大きい
  • 試料の入手が困難で、微量の試料(0.6±0.1 mg,1.8 GBq)しか利用できずその誤差も大きい
  • 不純物の245,247Cmの核分裂反応断面積が大きく、その影響が大きい

等の問題があるためです。そこで、これらの問題を解決するために、

  • ランダムタイミングパルスを用いて、検出器の不感時間を高精度に補正する手法
  • 娘核種の240Puの第一共鳴を用いて規格化を行うことにより、試料重量に起因する誤差を低減する手法
  • 核分裂反応の影響を245Cmの共鳴から補正する手法

等を開発し、1〜300 eVの範囲で中性子捕獲反応断面積を導出しました。得られた断面積の誤差は第一共鳴で5.8%と精度が高いだけでなく、20 eV以下の共鳴については世界で最初に得られた実験値です。また、測定結果はJENDL-4.0の評価値を支持する結果となり、JENDL-4.0の信頼性を実験により確認することができました。

現在、244Cmの他に246Cm,237Npの解析を終え、241Am,129I,107Pd,99Tc,93Zrの解析も進行中であり、原子力基盤データとして重要な放射性核種の核データの整備に大きく貢献することが期待されます。

本研究は、文部科学省エネルギー対策特別会計受託事業により北海道大学が実施した平成21年度「高強度パルス中性子源を用いた革新的原子炉用核データの研究開発」の成果を含みます。また、本研究は日本学術振興会科学研究費(No.22226016)「長寿命核廃棄物の核変換処理技術開発のための中性子捕獲反応断面積の系統的研究の」及び(No.22760675)「大強度ペンシルビーム高速中性子源を用いた高精度中性子捕獲断面積測定」の成果の一部です。