図8-20 はじき出し損傷計算モデルの概要
図8-21 開発した方法で計算したはじき出し断面積
原子炉材料や加速器機器の放射線照射による損傷の評価の指標として、照射領域に存在する全格子原子数に対するはじき出された格子原子数の比で定義されるDPA値があります。DPA値は、はじき出し断面積と粒子フルエンスの積で物理的に表され、この値の評価精度が原子炉や加速器施設等の機器のメンテナンス時期に大きく影響します。しかし、これまでの施設設計に用いられてきた放射線輸送計算コードは、核反応モデルしか採用していなかったため、はじき出し断面積を導出することができませんでした。
そこで、私たちは、幅広いエネルギーの種々の粒子に対する照射損傷を評価するため、核反応とクーロン散乱を考慮したはじき出し断面積の導出が可能な統合的な計算モデルを開発しました。本方法で考慮した機構を図8- 20に示します。従来のはじき出し断面積導出モデルは、入射粒子とターゲット原子とのクーロン散乱から生じるはじき出し断面積のみを考慮していました。本研究では、放射線輸送計算コードPHITSの核反応モデルと、クーロン散乱・カスケード損傷近似モデルとを組み合わせることで、入射粒子及び核反応から生じる二次粒子の寄与を計算可能としました。そして、広いエネルギー範囲の陽子照射に対するはじき出し断面積を計算したところ、実験値等を精度良く再現しました(図8- 21)。
本成果により、PHITSコードを用いた種々の粒子に対する照射損傷の精度良い評価を可能にするとともに、エネルギーがeVからGeV程度の広い範囲に及ぶ照射損傷の評価を可能としました。開発したモデルが組み込まれたPHITSコードのバージョン2.30は、米国希少同位体ビーム用施設(FRIB)やJ-PARC核変換施設の施設設計等に用いられています。