9-1 事故が起きても安全な究極の原子炉を探究

−本質的安全高温ガス炉の概念設計研究−

図9-2 本質的安全高温ガス炉の概念

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図9-2 本質的安全高温ガス炉の概念

いかなる事故が発生し、防止機能をすべて喪失しても、公衆・社会・環境に有害な影響を与えないように、物理現象に基づく自己制御性のみで、燃料被覆材の閉じ込め機能を喪失させる原因事象の進展を防ぎ、放射性物質を閉じ込め、本質的に公衆・社会・環境の安全を確保します(*1トピックス9-2,*2トピックス9-3)。

東京電力福島第一原子力発電所事故後、原子力システムの安全性に対して公衆の信頼を得ることが最重要課題です。このためには、想定外事象にどのように対処するのか、発生確率が非常に小さくても取り返しがつかない重大な結果を招く可能性のある原子力システムは受容できないという国民の疑問と意見に答える必要があります。この答えとして、私たちは、いかなる事故が発生しても、公衆・社会・環境に有害な影響を及ぼさないよう、本質的安全性を有する高温ガス炉システムを考案しました。安全を守る機器・設備を特段必要とせず、事故の進展を自然に防ぐ物理現象のみで原子炉を静定させる自己制御性を有した原子力システムです。

高温ガス炉は、燃料に1600 ℃以下では破損しない被覆粒子燃料を用い、燃料被覆材で核分裂生成物を閉じ込めます。私たちは、いかなる事故が発生しても、物理現象に基づく自己制御性のみで、燃料被覆材の閉じ込め機能を喪失する原因事象の進展を防ぎ、放射性物質を閉じ込めることを目標とした本質的安全高温ガス炉の概念を考案しました(図9-2)。燃料被覆材の閉じ込め機能を喪失する原因事象として、発熱量増加、若しくは冷却量減少による温度上昇、配管破断事故時に侵入する空気による酸化腐食及び空気と黒鉛の反応で発生する一酸化炭素(CO)等の可燃性ガスの爆発が挙げられます。温度上昇は、HTTRを用いて実証を進めているように、ドップラー効果,熱伝導,熱放射,大気自然対流による熱放散によって抑制できます。酸化腐食の進行は、安定な酸化被膜が形成されるため抑制できます。可燃性ガス爆発は、可燃性ガスが空気中の酸素によって早期に穏やかに酸化するため、可燃性ガス濃度は爆発下限濃度以下に抑制できます。HTTR等のこれまでの高温ガス炉システムでは、原子炉圧力容器からの熱を大気に放散する炉容器冷却設備、空気侵入量を制限する格納容器等の安全を守る機器・設備を設置していますが、今後のHTTRを用いた試験、設計研究等により、これらを必要とせず、物理現象のみで原子炉を静定させることが可能な本質的安全性を有する高温ガス炉システムの実現を目指しています。

本質的安全高温ガス炉の実現により、いかなる事故が発生しても、確実に公衆・社会・環境に対する安全を確保することで、公衆の信頼を得ることを目指します。