9-2 止めなくとも冷やせなくとも高温ガス炉は静定

−HTTRを用いた安全性試験:「出力制御機能喪失」+「冷却機能喪失」−

表9-1 HTTR安全性試験の条件と結果

HTTRの安全性試験では、出力制御機能喪失,冷却機能喪失を模擬し、HTTRが自然に静定することを確認しました。

表9-1 HTTR安全性試験の条件と結果

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図9-3 HTTRを用いた安全性試験の概要

図9-3 HTTRを用いた安全性試験の概要

試験では、原子炉出力30%の運転中にすべての制御棒を炉心に挿入せず(出力制御機能喪失)、ヘリウムガス循環機をすべて停止させ冷却材流量をゼロとし(冷却機能喪失)、原子炉の挙動を確認しました。

 

図9-4 冷却材流量,原子炉出力,燃料最高温度の過渡変化

図9-4 冷却材流量,原子炉出力,燃料最高温度の過渡変化

試験では冷却材流量がゼロとなりすべての制御棒が未挿入でも原子炉出力は、ほぼゼロとなり、燃料温度は大きな上昇なく安定になることを確認しました。

我が国で唯一の高温ガス炉HTTRを用いて、出力制御機能及び冷却機能を喪失した事故を模擬した安全性試験を実施し、高温ガス炉が自然に静定することを実証しました(表9-1)。

試験では、原子炉出力30%の運転中にヘリウムガス循環機をすべて停止させ、冷却材流量をゼロとし、すべての制御棒を炉心に挿入せず、原子炉の挙動を調べました。その結果、原子炉出力は直ちに下がり、ほぼゼロとなることを確認しました(図9- 3,図9-4)。高温ガス炉がこのような挙動を示す理由は、ウラン-238等の温度が上昇し、中性子吸収量が増加(ドップラー効果)し、核分裂連鎖反応が急激に減少するためです。また、原子炉出力低下後、冷却材流量がゼロで崩壊熱があるにもかかわらず、燃料温度が大きく上昇しない理由は、大きな熱容量を持つ炉心が一時的に熱を吸収するとともに、原子炉圧力容器内の熱伝導と、原子炉圧力容器外表面からの熱放射及び大気自然対流とにより自然に冷却されるためです。

東京電力福島第一原子力発電所事故では、地震で制御棒が自動的に挿入され、原子炉は自動停止しました。しかし、地震と津波で全電源喪失、冷却機能喪失により崩壊熱除去ができなくなり、その結果として、炉心溶融,水素発生・爆発,放射性物質の放出に至りました。一方、HTTRではすべての制御棒が未挿入でも原子炉出力はほぼゼロとなり、また、すべてのヘリウムガス循環機が停止し冷却機能を喪失しても、崩壊熱が除去でき炉心溶融に至らず、自然に原子炉が静定することを実際の原子炉で証明しました(図9-4)。

今後は、炉容器冷却設備を停止させ、地中を最終ヒートシンクとする、あらゆる冷却系を止めた安全性試験を実施する計画です。