図10-4 キャピラリー電気泳動法による簡易分析法の開発
図10-5 アクチニドイオン用蛍光プローブ (L)
図10-6 アクチニド錯体の電気泳動図
放射性廃棄物の処分には、廃棄物試料の分析データの収集が必要です。分析対象核種のうちアクチニド(An)の分析では煩雑な化学分離操作が必須であるため、簡易に分析し、分析者の被ばく量を低減できるキャピラリー電気泳動法 (CE法) による簡易分析法の開発を進めています(図10-4)。CE法は、内径0.05 mm,長さ約50 cmのガラス製毛細管(キャピラリー)中でイオンを泳動させ、移動速度の違いにより分離する方法で、簡易な装置と極少量の試料で非常に高分離性能を発揮することで知られています。CE法の検出部には、一般に吸光検出法が採用されていますが、検出限界値がppm程度と放射性廃棄物分析への適用が難しいため、より高感度な検出法(ppb〜ppt)として近年注目されているレーザーを用いた蛍光検出法に着目しました。
本研究では、大幅に高感度化が期待できるキャピラリー電気泳動-レーザー励起蛍光検出法(CE-LIF法)に着目し、これまで適用例のないAnを検出可能な蛍光プローブを開発し、Anのうちアメリシウム(Am)及びネプツニウム(Np)の分離検出に挑戦しました。蛍光プローブの基本構造は、(1) 検出感度を向上させるためレーザー光を吸収し、蛍光を発生させる部位 (発光部位)(2)Anイオンと結合する部位(3)これらの距離を適切に保つスペーサーで構成しました。このうち、Anへの適用性を左右する鍵となるのは(2)の結合部位で、泳動中に結合が切断されない強い安定性が求められます。そこで、結合部位の構造を少しずつ変化させた結合の安定性に違いのある蛍光プローブを7種類合成しました。このうち、図10-5に示す蛍光プローブを用いて、AmとNpの分離検出が可能となりました (図10-6)。このときの検出限界値は、それぞれ11 ppt,4.7 pptであり、吸光検出法に比べて、9万〜20万倍に感度を向上することができました。本研究により、分離性能に優れ、高感度検出が可能なCE-LIF法を用いてAnイオンの分離検出に世界で初めて成功しました。本法は極少量の試料を数十分程度で分析できることから、作業時間を大幅に短縮することが可能となり、分析者の被ばく量の低減が期待できます。
本研究は、埼玉大学との共同研究「アクチノイドイオン適合型キャピラリー電気泳動用蛍光プローブおよびプローブ錯体の精密分離技術開発」の成果の一部です。