図10-2 硝酸塩を含む放射性廃棄物を埋設した場合の影響
図10-3 触媒中の銅の割合と硝酸イオンの分解速度との関係
使用済燃料を再処理する施設の運転において、低レベルの放射性物質を含む廃液(放射性廃液)が発生しています。この放射性廃液には、大量の硝酸塩が含まれています。硝酸塩は人体に有害な物質であり、環境水や飲料水中の硝酸性窒素と亜硝酸性窒素の合計濃度の基準値が10 mg/Lに定められています。大量の硝酸塩を含む放射性廃液を固化した放射性廃棄物を埋設処分した場合、地下水等との接触によって硝酸塩が環境中に溶出し、環境への影響が懸念されます(図10-2)。したがって、放射性廃液を固化する前に硝酸塩をあらかじめ取り除いておくこと(脱硝)が重要となります。一般産業、特に農業の分野において、施肥等によって農業排水に混入した硝酸塩 (数100 mg/L程度) の脱硝技術が開発されています。このような排水中の硝酸塩は、主に自然界に存在する微生物の力を利用して硝酸イオンを分解しています。しかし、放射性廃液中の硝酸塩濃度は数10万mg/Lと高く、微生物が生育できる環境ではないため、新たな脱硝技術が必要となります。そこで、私たちは、化学反応に基づいて硝酸イオンを窒素ガスに分解する技術の開発を進めています。
硝酸イオンは、還元剤と触媒(パラジウム(Pd)と銅(Cu)の合金)を用いて窒素ガスに還元することができます。Pdは貴金属で、高価なため、触媒の性能が脱硝技術を実用化した場合の施設の運転費用に大きく影響します。そこで、硝酸イオンの分解速度が速くかつほぼすべての硝酸イオンを分解し、化学反応における副反応生成物(亜酸化窒素,アンモニア)の生成が少なく、耐久性が高いなどの性能に優れる触媒を開発しています。
ここでは、PdとCuの合金の微粒子を炭素粉末の表面に担持させた触媒を作製して試験に用いました。この触媒を約30万mg/Lの硝酸イオンを含む硝酸ナトリウム溶液に縣濁させ、撹拌しながら温度を80 ℃に保ちます。これに、還元剤であるヒドラジン―水和物を少量ずつ滴下することで、硝酸イオンをほぼ完全に分解することに成功しました。PdとCuの割合と硝酸イオンの分解速度を比較しました(図10-3)。触媒中の銅の割合が0.4付近の時、最も硝酸イオンの分解速度が速いことを見いだしました。このように、高濃度の硝酸イオンを分解することができる触媒の開発に成功し、さらに、触媒の耐久性向上のための研究開発などを継続しています。