13-7 ナトリウム中における金属材料のふるまいを調べる

−ジルコニウム合金の高温ナトリウムとの共存性の評価−

図13-13 500 ℃のNa中に1000時間浸漬したZr合金の外観

図13-13 500 ℃のNa中に1000時間浸漬したZr合金の外観

停留Na浸漬試料(b)は、試験前の外観(a)と有意な差が認められないのに対し、流動Na浸漬試料(c)は、Na中に溶存している酸素が拡散浸入したことにより黒褐色に変色していました。

 

図13-14 高温Na中におけるZr合金の重量変化

図13-14 高温Na中におけるZr合金の重量変化

Na中に溶存する酸素がZr合金の内部に拡散浸入することにより、時間の1/2乗に比例して重量の増加が生じます。また、温度が高くなるほど重量増加は大きくなります。

 

図13-15 Zr合金のNa浸漬後の引張強度特性の変化

図13-15 Zr合金のNa浸漬後の引張強度特性の変化

時間軸0には、Na未浸漬の引張強度特性を示しています。これにより、流動Na中では浸漬時間の増加とともに引張強さが増加し、破断延性が低下する脆化挙動が進行することが分かります。

ナトリウム (Na) 冷却高速増殖炉で使用される材料は、長期にわたって高温のNa環境下で使用されることから、材料固有の機械的な強度特性評価と併せて、Naとの共存性、すなわちNa中での腐食特性及びNa環境に起因する機械的強度特性の変化について評価する必要があります。

高速実験炉「常陽」では、炉心平均燃焼度の更なる向上を目指して、ジルコニウム (Zr) 合金製反射体を新たに適用することを検討しています。この反射体の製作において、Zr合金はNaとの共存性に優れたステンレス鋼製保護管に挿入されるため、通常の運転条件ではNaと直接接することはありませんが、仮に保護管が損傷するような事象が生じたとしても、原子炉の安全の観点から有意な影響が生じないことを評価しておくことが必要となります。

このような観点から、本研究ではZr合金を対象にNa中腐食特性及びNa浸漬後の強度特性について調べました。その結果、図13-13に示すように停留Na中では試験前後に有意な変化は認められないのに対し、流動Na中では外観が黒く変色していることが確認されました。また、図13-14に示すように、温度及び時間の増加とともに、重量増加が生じる結果が得られました。これは、Na中にppmオーダーで溶存する酸素がZr合金に拡散浸入したことに起因するものです。Na充てん量が制限される停留中では、溶存する酸素量も限定されるため、その酸素がZr中に拡散すればその後の進行は抑制されるのに対し、流動中では酸素を溶存するNaが常に供給され、それに伴ってZr合金への酸素の拡散も継続されることによります。なお、このような挙動は、Zr合金が炉心・構造材料として使用されるステンレス鋼よりも酸素との親和性が強い、つまり熱力学的に安定な酸化物を形成しやすいという特性に起因しています。

このNa環境効果に起因して機械的強度特性にも変化が生じます。図13-15に、Na浸漬後のZr合金の引張特性(引張強さ及び破断伸び) とNa浸漬時間の関係を示します。流動Na中では、引張強さが増加し破断伸びが低下する、いわゆる脆化挙動を生じています。ただし、これら機械的強度特性の変化は時間に対してゆるやかに推移しており、Zr合金がNa中に曝されても直ちに特性が変化しないことを確認できました。

本研究の結果を踏まえ、Zr合金製反射体の「常陽」への適用に向けた検討を進めていく予定です。