図1-22 放射性セシウムで汚染した汚泥の処理・処分のシナリオ
図1-23 汚泥の処理・処分に係る安全確保のための限界放射能濃度の評価結果
東京電力福島第一原子力発電所 (1F) 事故に伴い大気中に放出された放射性物質は福島県を中心とした地域に拡散し、土壌や森林などの地表環境の汚染を生じさせました。さらに、放射性セシウムが付着した地表の土壌粒子が下水道や上水の取水域に流れ込み、終末処理や浄水処理の過程で汚泥に放射性セシウムが濃集し、高濃度の放射性セシウムを含む下水汚泥や浄水発生土が発生しました。こうした放射性セシウムを含む汚泥は、作業者や公衆への放射線に対する安全性を確保しつつ迅速に対処する必要がありましたが、1F事故直後は汚染した汚泥の適切な管理方法を定める取扱い基準は定められていない状況でした。
そこで私たちは、放射性物質を含む汚泥の処理・埋設処分に関する取扱い方針の策定のための技術的情報を迅速に提示するため、汚泥の処理・埋設処分の作業者及び公衆の被ばく経路を想定した線量を解析しました。その解析結果から、原子力安全委員会が「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方について(平成23年6月3日)」で示した1F事故の影響を受けた廃棄物の処理、埋設処分に対する線量の目安値を満足する、汚泥及びその焼却灰中の放射性セシウムの濃度を求めました。
具体的には、汚泥の一般的な処理・処分の実態が、評価実績のあるクリアランスレベル (放射能濃度が低く人の健康への影響が無視できることから、放射性物質として扱う必要がない濃度基準) のシナリオと多くの共通性があることに着目し、そのシナリオをベースに、汚泥に固有な被ばく経路を追加的に考慮することにより、網羅性と信頼性を担保したシナリオを極めて短期に設定しました (図1-22)。また、より実態に則した解析のため、汚泥の取扱い及び処理施設の作業実態や施設等の処理実績の情報を収集し、各シナリオにおける適切なパラメータの設定を行いました。
汚泥及び焼却灰の処理・埋設処分の主要経路に対する評価結果を図1-23に示します。その結果、処分場跡地の居住などへの利用制限などを条件に、放射性セシウム濃度が8000 Bq/kg以下であれば汚泥の取扱いにおいて作業者や周辺住民の安全が確保できる見通しを示しました。
本検討結果は、国土交通省の指針「放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取扱いに関する考え方」などの技術情報として活用されました。