1-12 使用済燃料プール内の金属材料の腐食を防止する

−ヒドラジン添加による溶存酸素の除去効果の検証−

図1-24 溶存酸素濃度の分析例

図1-24 溶存酸素濃度の分析例

水中の溶存酸素濃度が高いと青色の発色が濃くなります。

 

図1-25 γ線照射有り無しでの溶存酸素濃度の変化

図1-25 γ線照射有り無しでの溶存酸素濃度の変化

ヒドラジンを添加した室温の人工海水にγ線を照射しました。放射線照射下では腐食作用のある溶存酸素が除去できました。

 

図1-26 ヒドラジンによる過酸化水素発生の抑制

図1-26 ヒドラジンによる過酸化水素発生の抑制

水の放射線分解で発生し腐食作用のある過酸化水素の濃度が低下しました。

東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、電源喪失により使用済燃料プール(燃料プール)の冷却が不十分となり、燃料露出を回避する緊急措置として1F2〜4号機の燃料プールに海水が注入されました。

通常、燃料プールは精製水が循環し燃料プール内の金属材料が腐食する心配はありませんが、海水が混入した水では腐食が懸念されます。例えば、燃料プール内貼り材料のステンレス鋼では、局部腐食 (孔食,すきま腐食)が進行した場合、プール水が燃料プールから漏れ出る可能性があります。

そのため1Fでは、腐食防止策として、腐食要因となるプール水中の酸素(溶存酸素)を取り除くために、高温ボイラー等で使用されている酸素除去剤 (ヒドラジン)をプール水に注入しました。ただし、200 ℃を超える高温水環境ではヒドラジンとの反応により溶存酸素は容易に除去できますが、海水が混入した室温の水環境で除去できるかは分からない状況でした。また、使用済燃料は強い放射線を放出していますが、その溶存酸素除去への影響も分からない状況でした。

そこで、燃料プールの環境を人工海水とγ線(60Co線源)を用いて模擬し、ヒドラジンによる溶存酸素の除去効果を評価しました。

ヒドラジンを32 ppm添加した人工海水に、室温にてγ線を7.5 kGy/hで1時間照射した後、発色試薬を用いて溶存酸素濃度を測定しました。この測定法では図1-24のように溶存酸素濃度に応じて発色が濃くなります。測定の結果、図1-25のように、γ線を照射しない場合、溶存酸素濃度はほとんど低下しませんでしたが、γ線を照射すると溶存酸素濃度は著しく低下しました。これより、海水が混入したプール水にヒドラジンを注入すれば、温度が低い条件でも使用済燃料から放出されるγ線により溶存酸素を除去できることが確認できました。また、水の放射線分解で生成する腐食作用のある過酸化水素もヒドラジンにより低減できることが分かりました(図1-26)。

本研究の結果から、ヒドラジン添加と放射線の作用により室温のプール水において腐食作用のある溶存酸素と過酸化水素を低減させ、燃料プール内の金属材料の腐食を防止する効果が期待できることが明らかになりました。

この研究成果に基づき、1Fでは燃料プール内の金属材料の腐食防止のためヒドラジン注入が継続されています。