図1-27 TMI-2事故における燃料デブリのイメージ
図1-28 取出し装置の分類
表1-2 取出し装置の検討に必要となる燃料デブリ物性
東京電力福島第一原子力発電所 (1F) の廃炉に向けて、1〜3号機に生成していると考えられている溶融等により著しく破損している燃料や構造材などの混合物 (燃料デブリ) の取出し作業は、2020年頃に開始されることが計画されています。取出し作業の方法の検討や使用する装置類の設計や開発において、その対象となる燃料デブリの特性を早期に明らかにすることが求められています。
まず、私たちは、過去のシビアアクシデント事例である、米国スリーマイル島原子力発電所2号機 (TMI-2)事故における燃料取出しに関する調査を実施しました。TMI-2の燃料デブリには、粉状や小石状の比較的小さなものや溶融後に固化した大きな塊状のもの、燃料集合体の一部が破損している切り株状のものなどがあり(図1-27)、これらの特徴に合わせて種々の取出し装置類が用いられたことが分かりました(図1-28)。
一方、1Fの炉内状況については、圧力容器底部が破損し、格納容器底部に落下した溶融燃料とコンクリートとの反応 (MCCI) が起きたなどのTMI-2とは異なる事象が想定されています。このような違いにより、1Fの燃料デブリは、炉内の分布状況や成分などがTMI-2と異なりますが、いずれも溶融セラミックスなどが固化して生成したものであることから、小石状,塊状など、TMI-2と特徴が類似するものが生成した可能性が高く、基本的にはTMI-2と類似の装置類が使用できると推測しました。
TMI-2で使用された取出し装置類を、打撃,せん断などの原理によって6種類に分類し、各々の分類において加工性等を評価するのに必要な物性について半理論式や実験データなどによって検討しました。その結果、これらの装置類の設計や開発に必要な燃料デブリの物性として、形状,大きさ,密度のほか、機械的性質のうち硬さ,弾性率,破壊靱性,熱的性質のうち融点,比熱,熱伝導率が重要と結論付けました(表1-2)。当面の課題として、過去に蓄積データが少ない機械的な物性を中心にデータ取得を行っていく必要があります。これらの物性については、模擬デブリを用いて調査を行いますが、実デブリの測定も念頭に置き、ビッカース硬さ試験 (硬さ),超音波パルス法 (弾性率),IF法 (破壊靱性) など小片でも可能な方法により測定を実施していきます。測定した物性値を基に、装置開発等において利用される非放射性の模擬デブリ材料の提案を行っていく考えです。