1-14 高温の炉心に注水した海水から何ができるか

−燃料デブリと海水塩の高温反応生成物を調べる−

図1-29 海水塩と加熱した(U,Zr)O2模擬デブリペレット表面の二次電子像

図1-29 海水塩と加熱した(U,Zr)O2模擬デブリペレット表面の二次電子像

815 ℃で加熱した際には溶融固化したNaClとMgO結晶が主要な塩成分残渣として表面に堆積しています。1198 ℃加熱後にはMgOが主要な塩成分残渣になります。

 

図1-30 空気中1002 ℃で海水塩と加熱した(U,Zr)O2模擬デブリペレット断面の二次電子像と元素分布のX線像

図1-30 空気中1002 ℃で海水塩と加熱した(U,Zr)O2模擬デブリペレット断面の二次電子像と元素分布のX線像

ペレット表面と塩成分残渣の間に、厚さ50 μm程度の緻密な(Ca,Na)-U-O系ウラン酸塩層の生成を確認しました。

 

図1-31 アルゴン中1002 ℃で海水塩と加熱した(U,Zr)O2模擬デブリペレット断面の二次電子像

図1-31 アルゴン中1002 ℃で海水塩と加熱した(U,Zr)O2模擬デブリペレット断面の二次電子像

ペレット表面の塩成分残渣中に、一時的に生成したウラン酸塩が還元されてできた(Ca,U)O2+xの微細な破片が分散しています(丸で囲んだ部分)。

東京電力福島第一原子力発電所事故では、炉心の緊急冷却のため海水が注水されました。溶融した燃料は圧力容器下部に堆積したと考えられますが、水面上に露出した高温の堆積物 (燃料デブリ) 表面では海水が蒸発し、塩が析出した可能性があります。この塩にはNaClのほか、Mg塩化物及び硫酸塩,Ca硫酸塩などが含まれます。燃料デブリの取り出しに向けた性状予測データ取得の一環として、デブリ取り出し時に付随する塩由来成分を明らかにするため、高温で海水塩とどのような化合物が生成するのかを調べる必要があります。そのため、ペレット状の(U,Zr)O2模擬デブリを作製し、海水塩との高温反応試験を行いました。

まずアルゴン気流中で加熱したペレット表面の観察像を図1-29に示します。815 ℃で加熱した試料表面には、溶融固化したNaCl(融点約800 ℃)のほか、Mg塩が熱分解してできたMgO結晶が見られます。より高温でNaClは徐々に蒸発しますので、1198 ℃で加熱した際の塩残渣はほとんどMgOのみとなります。

次に空気中1002 ℃で12時間加熱した試料の断面観察像を図1-30に示します。外観は特徴的な橙色であり、X線回折測定と元素分析の結果から、CaとNaのウラン酸塩層が表面に生成していることを確認しました。

一方、アルゴン気流中で加熱した際には、塩中のCaがペレット表面へ固溶し、(Ca,U,Zr)O2+xとなることを確認しましたが、その深さは1198 ℃-12時間の加熱で約5 μmと浅く、デブリの性状に大きな影響を及ぼす可能性は低いと考えます。ところが、図1-31に1002 ℃で加熱した試料の断面観察像を示すように、ペレット表面の塩残渣中に、(Ca,U)O2+xの化学形をもつ微細な破片状粒子が分散していることを確認しました。これは硫酸塩の熱分解時に発生するSOxガスでウランが酸化されて一時的にウラン酸塩が生成し、その後保持している間に二酸化物固溶体に還元されたものです。

以上の試験結果から、燃料デブリ性状への海水塩の影響として、デブリには塩残渣のMgOが付随すること,高酸素分圧下ではデブリ表面にウラン酸塩が生成している可能性があること,低酸素分圧下ではウラン酸塩が還元された微細な破片が塩残渣中に含まれる可能性があることを明らかにしました。これらの成果は、デブリ取り出し方法の検討に加えて、臨界管理や計量管理手法の検討にも反映されます。