図1-32 燃料デブリの発生
図1-33 燃料デブリの解析モデルの例
図1-34 燃料デブリの臨界性の検討結果
東京電力福島第一原子力発電所(1F)の1〜3号機は運転中に東日本大震災に遭い、炉心の大規模な溶融が起きたと考えられています。この時、溶けた燃料が原子炉の構造材や炉心を格納している格納容器のコンクリート等を溶かし、これらと混合することで、様々な組成の物質が発生しました(図1-32)。これを燃料デブリと呼びます。燃料デブリの量は各号機数10 tに及ぶと推定されています。
現在、燃料デブリの大部分は未臨界であると考えられていますが、通常の燃料の最小臨界量が数10 kgであることを考慮すると、今後の炉内状況の変化や、将来の燃料デブリ取り出し時の形状変化に対して、その一部が再臨界を起こすリスク (核分裂が連続して起こる臨界となる危険性)について慎重に検討することが必要です。しかし、通常の燃料の臨界性が、その性状が確定していることを前提として評価されるのに対し、燃料デブリは、その組成,形状をはじめ、多くの情報が今なお不明のままです。このため、今後燃料デブリの組成が判明した時に迅速に再臨界リスクを判断できるよう、あらかじめ多様なデブリの臨界性を評価し、臨界となる範囲を示した「臨界マップ」を作成しておく必要があります。
この要求に応えるため、私たちは、国内外の研究結果を参照しつつ、燃料デブリの情報を推定し、水分量や燃焼度をパラメータとして幅広い条件で臨界解析を進めています。
図1-33に示したのは、検討中の燃料デブリのモデルの一例です。格納容器のコンクリートと燃料が混合した条件を想定しています。
計算結果を図1-34に示します。図中、赤色とした部分が臨界のおそれがある領域であり、燃料-コンクリート混合物は広い範囲で臨界となり得ることが分かります。また、臨界量を評価した結果、数100 kg〜数tで臨界となることが分かりました。これは炉内の燃料デブリの数十分の一の量であり、臨界防止手段を講じる必要があることが分かりました。
そのほかにも、燃料とコンクリートが混合して水中に分散した体系,圧力容器の鉄が混ざった体系等、多種多様な条件の燃料デブリについて臨界性を検討し、その結果を臨界実験で検証することが必要です。私たちは今後も解析と実験の両面から検討を行い、どのような燃料デブリに対してもその臨界リスクを適切に判断できるよう、データを蓄積し、臨界防止技術,再臨界検知技術に反映していく予定です。